コロナ後の世界を理解するための「11の数字」 マッキンゼーが読み解くネクスト・ノーマル

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しかしながら、今のペースでは、気温上昇を2050年までに1.5度以内に抑えることはできない。民間セクターにおける目標の実行が鍵を握る。

「21世紀型の企業」

社会の分断と緊張が高まる中で、企業は短期的な企業業績だけでなく、個々人の能力向上、職場のウェルネス(健康)の向上、エンドユーザーへの貢献、環境への貢献などを通じて、社会と調和的な発展を目指すことが求められている。さまざまな研究により、こうした方向は企業の競争力を中長期的に向上させることが明らかになっている。前述のMEGA25の多くは、こうした側面においても、先進的な取り組みを行っている企業が多い。

⑨ 1万ドル デジタル/AI人材を1名新規雇用する代わりに、1名リスキリングすることで削減できる費用

ネクスト・ノーマル(新常態)における成長を、デジタル/AIなどの技術が牽引することに疑いの余地はない。デジタル化を進める最も経済効率の良い方法は、大規模なリスキリングを成功させることである。企業にとって、コスト効率が良く、前述のワークシフトによるショックを和らげる社会的な効果も期待できる。

⑩ 63% 経営陣の女性の割合が30%を超える企業が、業界の平均利益率を超える業績を出す可能性

ダイバーシティー(多様性)の推進が、企業業績にポジティブな影響を及ぼすことが、明らかになってきている。しかしながら、前述のとおり、コロナ禍でリモートワークが進む中で、ワーキングマザーの負担が増えており、ダイバーシティーへの取り組みは正念場を迎えている。

⑪ 59兆円 国家として健康への投資を正しく行うことで得られる日本GDP効果

ウェルネス(健康)管理の経済的な効用の研究が進んでいる。コロナ禍を契機に企業は従業員の健康に関心を持ち、健康を向上させるためのさまざまな措置をとるようになった。企業は、簡単な行動変容を促したり、職場環境の改善に配慮することで、病欠者を減らし、個々人の生産性を向上させることができる。

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「ネクスト・ノーマル(新常態)」はすでに訪れている。国・産業・企業間に「K字」型の格差が生まれている。事業活動のデジタル化が進み、消費者行動がアジャイルに変化し、そして需給関係やサプライチェーンのボラティリティ(変動幅)が増しており、ビジネス環境が激しく変動する時代が訪れている。パンデミックの克服に私たちが尽力している中で、社会の分断、ワークシフトによる混乱、さらにはサステナビリティ危機といった困難が、目の前に迫っている。社会的な危機と緊張が高まる中で、企業は大きく変革しなければならない。デジタル、AI等の技術をリスキリングを通じて自社に取り入れ、ダイバーシティーやウェルネスなどへの取り組みを拡大して、社会と調和的な発展する「21世紀型の企業」を目指さなければならない。11の数字は、「ネクスト・ノーマル」を生きる企業に課せられた使命を浮き彫りにしている。

小松原 正浩 マッキンゼー・アンド・カンパニー シニアパートナー

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こまつばら まさひろ / Masahiro Komatsubara

慶應義塾大学文学部卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院国際関係論修士課程修了。先端産業研究グループのグローバルにおけるリーダーの一人。最近は、製造業、メディア、流通、交通、運輸など、幅広い業種のコンサルティングを行う。また、アジアにおいて自動車業界を担当するリーダー。30年にわたるマッキンゼーでのコンサルティング経験を生かし、戦略策定、新規事業開発、組織変革、購買や研究開発、サプライチェーン部門でのオペレーション改善など、幅広い領域で支援を行っている。2015年から東京大学大学院非常勤講師として、企業戦略論を担当。

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住川 武人 マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー

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すみかわ たけひと / Takehito Sumikawa

東京大学法学部卒業、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。外務省勤務後、マッキンゼーに参画。未来のモビリティに関して研究するMcKinsey Center for Future Mobilityのアジアにおけるリーダー。自動車、建設機械、交通運輸、ハイテク等、モビリティに関わる産業を中心に、事業戦略、新規事業創出、サステナビリティ変革、デジタル変革、オペレーション改善等、幅広い分野で、経営幹部に対して持続力ある成長を実現するためのさまざまな助言を行っている。マッキンゼー社内では、アジアにおけるダイバーシティ推進を担当するリーダーの一人。

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山科 拓也 マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー

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やましな たくや / Takuya Yamashina

慶應義塾大学法学部法律学科卒業。自動車・組立産業、先端エレクトロニクス、電力および天然ガスセクターのクライアントに対しコンサルティングを提供し、戦略策定、オペレーション変革および新規事業の立ち上げを数多く支援。コンサルティング以外の分野においては、採用や人材開発にも注力している。現在、アジアおよび日本のオペレーション研究グループにおけるダイバーシティ強化の取り組みをリードしている。

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