浮世絵にハマったカナダ人が日本で見つけた使命 「木版画✕ポップカルチャー」を世界へ

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YouTubeチャンネルも開設し、ますます”普及”に意欲を燃やすデービッドさん(撮影:今井康一)

2011年にYouTubeチャンネルを開設し、木版画や浮世絵について発信し続けている。登録者数は海外を中心に、13万人にも上る。工房から定期的に生配信も行っており、毎回数百名の視聴者が参加するという。

「僕がカナダにいたころ、こんな映像が見られたら、もっと苦労は小さかったはずです」とデイブさんは笑う。実際にこのチャンネルがきっかけで、版画を始める人が増えているそうだ。版画の魅力を知り、「欲しい!」という人も同様。まさに日本文化のインフルエンサーである。

「好きで、なくしたくないから」

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木版画家として、デイブさんには信念がある。それは自分たちがつくった木版画に、高額な値段を付けないこと。版画は庶民の日常にあり、生活を楽しく豊かにしてくれるものだと考えているからだ。どんなに美しい作品であっても、お金持ちしか買えない美術品として扱われるのを拒否している。量産して安く大量販売することもせず、あくまで適切な価格で、広く人々に届けたい思いがある。

「そもそも僕は、版画を美術品だと考えていません。江戸時代、印刷物は木版画で行っていました。明治時代に外国から印刷機が入ってきて、木版画の技術はほとんど終わってしまった。でも、機械にはできない美しい表現が好きで、なくしたくないから、僕は木版画を続けているだけなんです」

好きだから、続けている。好きだから、多くの人々に届けたい。デイブさんの根底にあるのは、そんな実にシンプルな思いなのだ。ちなみに、今や名工となったデイブさんだが、作品づくりを厳しく監視するもう1人の自分は、変わらずいる。なぜなら、木版画は200年も残るものだからだ。

「家電も洋服でも、せいぜい10年くらいでゴミになってしまいますよね。でも木版画は、江戸時代の作品がまだあるように、200年以上も残ります。デイブの作品も、買ってくれた人だけじゃなく、その子どもや孫も見るかもしれないから、丁寧につくらないとダメ。『この版画は平成や令和につくられたんだ、すごい技術だね』と驚いてほしいですしね」

茶目っ気たっぷりにデイブさんはほほ笑み、ちらりと作業台のほうを気にする。作品づくりの続きに取り掛かりたくて仕方ないのだろう。「出ていけ!」と怒鳴られる前に、取材を切り上げたほうがよさそうだ。最後に、木版画家としての半生に感想を求めると、この日いちばんの笑顔で答えてくれた。

「木版画に出合って、日本に来たばかりのころ、今のようになれるとは思っていませんでした。アンビリーバボー、アイムベリーハッピー、こんなに幸せな仕事はありませんよ!」

肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

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こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京都生まれ。ルポルタージュや報道系の記事を主に手掛ける。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』(実務教育出版)。東京・新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」のオーナーでもある。ライフワークは愛の研究。

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