「社会守る」精神病院で人権侵害が続発する大矛盾 日本は認知症の強制入院を是とする国でいいのか

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最終的に弁護士を伴い訪問したことで、ようやく退院に至ったが、「入院中の投薬により肉体的にも自由が利かず、精神的ショックも大きく事業経営を続ける気力を失ってしまいました」(Aさん)。廃業に追い込まれ、会社借入金の連帯保証人になっていたため多額の借金を抱え、夫婦の生活は困窮している。

「退院するときのお父さんは、歩くのもふらつき、車の乗り降りもやっとでした。うまくしゃべることもできず、肉体的に元の状態に戻るには半年ぐらいかかりました」。退院後のAさんの状況を妻はそう話す。

「一緒に住んでもいない長男からの連絡一つで、長年連れ添いベテランの看護師でもある妻とは一切話をしないで、こんな拉致・監禁がまかりとおるとは今でも信じられない。報徳会宇都宮病院の医師たちに、検査もしないで一方的に認知症だと決めつけられたことで、強制入院でたくさんの薬を飲まされ、身体はどんどんおかしくなりました」

Aさんは憤り、こう力を込める。

「私たちをこんな目に遭わせた報徳会宇都宮病院を、許すことはできません」

本件について報徳会宇都宮病院は、「現在、証拠保全手続がなされ、訴訟案件のようなので、取材・コメント等を差し控えさせていただきたい」としている。

急増する認知症での精神科入院

団塊の世代全員が、75歳以上の後期高齢者となる2025年。厚生労働省の推計によれば、認知症の高齢者(65歳以上)は約700万人となる。認知症予備軍にあたる軽度認知障害(MCI)まで含めると、確実に1000万人を超えるとみられ、高齢者の3人に1人となる。

発症予防の決め手はなく、今年6月にアメリカで承認された新薬「アデュカヌマブ」も、適用対象は認知症のうちアルツハイマー型の初期に限られるため、治療対象とされるケースは一部にとどまる。また年齢を重ねるほど発症リスクは高まるため、すでに超高齢化社会の日本では、認知症には誰もがなりうると考えたほうがいい。

もはや認知症は特別なことではなく、本人や家族としてはいかに備えたうえで普通に付き合っていくか、社会としてはいかに認知症の人が当たり前にいて、受け入れる体制を構築できるかが重要となってくるはずだ。

ところがAさんのように、認知症だと診断されたことで、突如として精神科病院への強制入院を余儀なくされるケースは決して少なくない。

厚生労働省の調査によれば、精神疾患を有する入院患者のうち、アルツハイマー型認知症は4.9万人(2017年)で、2002年の1.9万人から右肩上がりで増加している。最多である統合失調症が減少傾向にあるのとは対照的だ。

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