「入院する前は、朝早くに起きて1日中仕事をし、夜勤もこなすほどでしたが、入院中にろくに説明もないまま飲まされた薬は強力で、飲むとボーっとなって昼間でもほとんど寝てしまっていました」
「そのうち意識もおかしくなり、手が震えて字が書けなくなり、よろよろするようになりました。ついには口がうまく締められずよだれを垂らすようになり、トイレを我慢できず失禁するまでの状態に陥りました」
北陸地方で介護施設を経営していた、元警察官で70代男性のAさんは、精神科病院への1カ月強の入院で、自分でも信じられないほど、あっという間に衰弱してしまったと、当時の体験を振り返る。連載第4回「ある朝、精神病院に強制連行された男の凶体験」でも紹介した、この男性が入院させられたのが、報徳会宇都宮病院(栃木県宇都宮市)だ。
95歳オーナー医師の一方的な診察
「認知症で頭がおかしいから、これから病院に連れて行く」
2018年12月ある日の早朝6時45分。Aさんが妻とともに施設利用者の朝食準備をしていたところ、民間救急業者(同事業については連載第4回で詳述)の職員4人が土足で施設に立ち入りこう告げて、Aさんを羽交い締めにしたまま無理やり引きずり、宇都宮ナンバーのワゴン車に連れ込んだ。財布や携帯電話などを持つ時間の猶予すら与えられなかった。
屈強な男たちに連行される夫の姿に驚いた妻は、「お父さんに認知症なんてない。私はずっと看護師をやってきたからわかる」と強く主張したが、妻に行き先を告げることもないままワゴン車は走り出した。
約5時間半かかり、ようやく到着したのが報徳会宇都宮病院だった。精神疾患を有しておらず精神科への受診歴も皆無のAさんにとって、他県で遠方である同院にはもちろん一度も掛かったことはなく、その存在すら知らなかった。
民間救急業者の職員に連れられて診察室に入ると、高齢の男性医師が入ってきた。同院の「オーナー」である石川文之進(いしかわ・ぶんのしん)医師(95歳)だ。石川医師は手元の書類とAさんをいちべつするや、「認知症がある」「酒を飲んで暴れる」などと一方的に告げてきた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら