Aさんは努めて冷静に、「認知症はありません。酒は飲むこともありますが暴れたりはしません。それは事実無根です」というと、石川医師は興奮して、「勝手にせい!もう行け!」と男性を怒鳴りつけ、入室して数分程度で出て行ってしまったという。
次に女性医師の診察となったが、石川医師と同じ話を繰り返すばかりで、Aさんの話に耳を傾けることはなかった。「自分に認知症があるかどうかは、看護師であり一緒に暮らしている妻に聞いてほしいと懇願しましたが、まったく相手にしてくれませんでした」(Aさん)。
認知症テストもなく強制入院
「医師が診察したので、即入院だ」。Aさんはソーシャルワーカーにそう告げられると、看護師らによって小さな隔離室へと連れられた。「これ以上文句を言ったり騒いだりすれば、注射を打たれたり、何をされるかわからないのでおとなしくしていた」(Aさん)にもかかわらずだ。
隔離室は、「手の届かない高いところに小さな窓が付いた、外側から鍵をかけられた部屋でした。簡易ベッドとトイレのみが設置され、食事は小さな窓から出し入れするような、まるで独房のような扱いでした」(Aさん)。ここに問答無用で2日間入れられた。
閉鎖病棟内の4人部屋に移ってからも、財布も携帯電話もないため、同室の患者が不憫に思ってテレホンカードを貸してくれるまで、妻との連絡もできなかった。
Aさんを認知症だと診断し強制入院させるのにあたって、同院が行ったのは2人の医師によるごく短時間の問診だけで、長谷川式認知症スケールなどの客観的な認知症テストは、いっさい行われなかった。
入院形態は、精神科特有の強制入院の一つ「医療保護入院」だ。本人が入院に同意しなくても、1人の精神保健指定医(経験年数やレポート提出など要件を満たした精神科医)の診断と、家族など1人の同意があれば強制入院させられる。ある人を強制入院させたいと考える側にとって極めて使い勝手のよい制度だ。
実際、上記のような一方的な診察に加え、同意した家族というのは、20年近くも音信不通で、その後軌道に乗ったAさんの事業に参加してきたものの、金銭トラブルを起こしていた長男だった。
Aさんや妻、次男は何度も退院させてほしいと懇願したが、病院側は手続きをした長男が承諾しない限り退院をさせることはできないとの一点張りだった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら