尾身茂会長、政府との危機認識のズレ抱えた苦悩 本音を告白、コロナ対策の裏側で起きていたこと

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リスク評価を盛り込んだ専門家の提言は、専門家の有志として、6月18日に公表された。「感染拡大や医療逼迫のリスクがある」と指摘したうえで、感染拡大した場合は無観客にするなどを提案した。

だが、この提言はなぜ専門家の有志なのか。かつて専門家会議のクレジットに強くこだわった尾身氏らしくないと思えた。

尾身氏:
「感染が下火であれば、経済との両立は選択肢のひとつ。でも、今回は感染拡大期で、そんな状況ではなかった。医療の専門家以外の委員から反対意見が出ないとも限らない。もし分科会が分裂したら、メディアの焦点はそちらに当てられ、メッセージ性が薄れてしまう。有志の会で出すことはかなり以前から決めていました」

バッハ会長の再来日、に苦言

そのオリンピックを終え、パラリンピックが始まった直後の8月25日だった。衆院厚労員会に参考人として出席した尾身氏が、国際オリンピック委員会のバッハ会長の再来日について問われた。

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「オリンピックのリーダーはバッハ会長、何でわざわざ来るのかと。そういうことをなぜ、普通のコモンセンスなら(オンラインでのあいさつ)できるはずなんですね。(中略)これは私は、専門家の会議のというよりも、一般庶民としてそう思います」

質問した立憲民主党の尾辻かな子氏も、「非常に踏み込んで発言していただいた」と驚くほどの強い口調だった。国や政府を批判するにしても婉曲な言葉遣いを心掛ける尾身氏が、なぜ舌鋒鋭く切り込んだのか。

尾身氏:
「バッハ会長に関する質問の予定がなかったんですよ。準備もしていないのに、いきなり尋ねられたから、とっさに本音が出たんでしょう。ホスト国である日本では、自宅療養中の感染者が相次いで亡くなるような危機的状況。国民は自粛やテレワークなど精いっぱいの努力を続けているときです。そういった国民感情を組織のリーダーなら理解しているはずなんです。見識の問題だと思う。ただ、専門家会議としてではなく、あくまで一般庶民と断ったうえでの発言です」

パンデミック時の感染症対策に実効性を持たせるためには、政府と専門家との連携が欠かせない。官邸が政治的な思惑で動いたり、官僚が旧態依然とした規範やしきたりにこだわったりすれば、人智を超えるパンデミックには太刀打ちできない。

そんなとき、国民が頼りにするのが、専門家のインテグリティだ。本来は高い倫理性を指す言葉だが、尾身氏ら専門家は、「客観性」「政治的中立性」「誠実さ」と説明する。

尾身氏の苦悩は、そのインテグリティと現実とのはざまにある。

辰濃 哲郎 ノンフィクション作家

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たつの てつろう / Tetsuro Tatsuno

1957年生まれ。慶応義塾大学法学部を卒業後、朝日新聞社に入社。支局、大阪社会部を経て、東京社会部で事件担当や遊軍キャップ、デスクなどを務める。2004年退社。主な著書は『ドキュメント マイナーの誇り―上田・慶応の高校野球革命』 『海の見える病院 語れなかった「雄勝」の真実』、共著は 『歪んだ権威 密着ルポ日本医師会~積怨と権力闘争の舞台裏』 『ドキュメント・東日本大震災 「脇役」たちがつないだ震災医療』。佼成学園高校で甲子園に出場。慶応大学では投手だった。関連して著書に『ドキュメント マイナーの誇り・上田慶応の高校野球革命』がある。

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