コロナ禍で収入半減した「正社員運転手」の嘆き 「働き方改革」で残業ゼロ、生活苦のシングル父

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日本にはこうした問題を解決するために、労働基準法や労働組合法がある。規制の対象外とするよう求めるよりも、まず労働組合を発足させるべきなのではないか。これに対して、マサヤさんこう反論する。

「労働組合をつくろうとしてもつぶされる。昔からそういう業界なんです。私も何度か労働組合をつくりたいと、上司に掛け合ったことがありますが、うまくいきませんでした」

かつて労働時間や残業代をめぐって労働基準監督署に告発した同僚も何人かいた。しかし、労基署が動いてくれたことはただの一度もない。結局、告発した同僚はいわゆる「追い出し部屋」に押し込められ、退職を余儀なくされた。狭い業界でもあるので、他社への再就職は望めない。これが声を上げた労働者の末路だと、マサヤさんはいう。

闘う武器はあっても、使えない

ただドライバーという業界全体でみたとき、労働組合がつくりづらいということは決してないはずだ。タクシーやハイヤー、観光バス運転手などでつくる労働組合の集まりとしては全国自動車交通労働組合連合会(全自交労連)や全国自動車交通労働組合総連合会(自交総連)があるし、個人加入もできる全日本建設交運一般労働組合(建交労)にはダンプやトラック運転手による部会もある。

業界というよりは、やはり業務委託を受ける立場にあることから、親会社の意向に逆らえない会社独特の問題なのではないだろうか。ただ労働組合もつくれないほど労働者の立場が弱いのだとしたら、労働時間の上限規制を適用しないよう求めることはなおさらリスクが高い。会社側のいいなりになるのが目に見えているからだ。

この連載をまとめた書籍『不寛容の時代 ボクらは「貧困強制社会」を生きている』が、8月23日発売されました(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

いずれにしても労働関連法という闘う武器はあっても、使えないということは、マサヤさんの話を聞いてよくわかった。

車窓からは世の中がよく見える、とマサヤさんはいう。1回目の緊急事態宣言が出された1年半前は街中から人が消えた。工事のつち音も鳴りを潜め、いつの間にか「売地」という看板が立てられた建設現場をいくつも目にした。ところが、今はどこを走っても、コロナ禍以前と変わらない人混みに出くわす。危機感とは程遠い光景である。

「本当に緊急事態宣言が出されているのかと疑いたくなります。繁華街で窓を開けても(観光客である中国人による)中国語が聞こえなくなったことが唯一の違いでしょうか」

夏ごろからは役員たちがぽつぽつと週末のゴルフを再開し始めた。「高齢者のワクチン接種が進んだんでしょう」。マサヤさんにとって数少ない明るい話題でもある。

このままワクチン接種が進み、新規感染者数が減少していけば、夜の会食も増えるかもしれない。せめて残業時間がコロナ禍前の水準に戻ってくれれば――。かすかな期待にすがり、ハンドルを握る日々が続く。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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