なぜ「セブン」は近所に何店舗も出店するのか ビジネスモデルでわかる小売のしたたかな作戦

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地域ドミナントは各個店の売り上げや利益をわざと落とすモデルなので、フランチャイズとの親和性が悪いとも言われています。フランチャイジー(店のオーナー)としては、チェーン店からテリトリー保障をもらい、自身の売り上げを最大化しようとするため、自身の店と共食いするような出店は通常許しがたいものです。

実際、スターバックスはすべてを直営店で運営しており、フランチャイズで運営した場合に起こるであろうフランチャイジーからの過密な店舗展開による店舗効率の低下のクレームを防止しています。

セブン-イレブンはフランチャイズとして運営しているのですが、同社は集中出店することにより顧客心理が変化し、顧客によるセブン-イレブンの利用率が上がる、つまり店舗を密に展開することにより競合がいなくなるだけではなくスーパーなどほかの小売業態との間の優位性も変化し、結局は個店の利益も高まるという説明をしています。

ネット時代こそリアルを制す

地域ドミナントは本来、地域を選択して多店舗展開しゾーンディフェンスするビジネスモデルですが、イオンのように商圏内の需要を総取りできるような地域、つまり孤立した地方都市にモールを展開してほかの小売事業者をことごとく駆逐してしまい、地域の需要を総取りするモデルも同様の発想に基礎を置いています。

また、土地や場を独占するという意味では、店舗ではなく自動販売機などでも同様なモデルを成立させることは可能です。オフィスグリコのように、オフィスに菓子箱を設置したり、富士薬品の配置薬のように家庭に薬箱を設置して、その空間における需要を独占するというモデルも、同様の発想の基礎に立っているということができるでしょう。

地域ドミナントは、物理的・地理的な空間が作り出す非対称性が、戦略に利用可能だということを示しています。インターネットによってさまざまな競争上の障壁が取り払われ、競合の侵入を防ぐ手立てがなくなっている(市場が徹底的に均質でフラットになっている)現代において、物理的な(リアルな)空間は、いやむしろ物理的な空間のほうが、競合の侵入を防ぐための有効な手段となりえます。戦略を立案するにあたっては、リアルな空間を利用して競争優位が作り出せないかを考えてみるべきです。

このビジネスモデルは意図的に店舗効率を落とすことによって競合優位性を上げるというように、部分的に非合理な行動を意図的に行うことによって、かえって強いビジネスモデルを作り出すことができる好例です。このように、モデルのある要素を単独で見ると非合理だが、それがほかの要素を強化することにつながり、全体として強くなっているものがほかにもいくつかあり、ビジネスモデルというのは全体で考えるべきで、部分だけの合理性を求めるべきではないことをよく示しているということができます。

今枝 昌宏 エミネンス合同会社代表パートナー、ビジネス・ブレークスルー大学大学院教授経営学研究科長

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いまえだ まさひろ / Masahiro Imaeda

愛知県生まれ。PwCコンサルティング、IBM、RHJI(リップルウッド・ホールディングス)などを経て現職。現在は、コンサルティングと研修事業を営む企業を経営するとともに、ビジネス・ブレークスルー大学大学院で「現代版企業参謀」「デジタル時代の経営原理」の講座を担当。ビジネスモデル論、サービス経営、デジタルビジネスなどを専門とする。
著書として『デジタル戦略の教科書』(中央経済社)『ビジネスモデルの教科書』『ビジネスモデルの教科書【上級編】』『サービスの経営学』『実践・シナリオプランニング』(いずれも東洋経済新報社)『実務で使える戦略の教科書』(日本経済新聞出版)などがある。
 

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