なぜ「セブン」は近所に何店舗も出店するのか ビジネスモデルでわかる小売のしたたかな作戦

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地域ドミナントでは、地域を選んで集中的に出店します。競合の出店余地を封じるほど密に出店するわけですが、多くの場合、さらに進んで西松屋のように自社の店舗間で顧客の共食いが起きるほどに密集して出店してしまいます。顧客の共食いにより店舗効率は落ちますが、競合が入って来る可能性はさらに低くなります。

共食いにより1店舗当たりの売り上げや利益が減ることになりますが、一方で、地域を独占できれば競争がいなくなるだけではなく、オペレーション面で大きく効率を上げることが可能になります。

まず同一地域に店舗が密集しているので、配送の効率が上がります。同一のトラックでより多くの店舗への配送が可能となりますし、店舗間融通もしやすくなりますので、在庫も抑制できます。チラシや看板などの広告効率も上がりますし、地域の人たちは同じ地域で自社の店舗を何度も見ることになりますので、地域での自社のプレゼンスが上がり、地域の人たちの意識に強く焼き付くことになります。さらに、地域需要を独占できるので、店舗間で顧客がスイッチすることによる売り上げ変動が地域全体として吸収され需要が安定し、会社全体の業績が安定するだけでなく、在庫圧縮などの点でもメリットがあります。また、要員の融通も可能になることもあります。

副次的な効果ですが、西松屋が意図しているように店舗の効率が落ちることによって、顧客の待ち時間が少なくなったり、店舗内をゆったり使えるようになることもあります。その結果として顧客満足度が上がり、それがさらに顧客の確実な来店を促すことになるのです。また、ゆったり買い物ができることによって顧客の滞留時間を上げることができれば、それがさらなる購買や店舗選択につながります。

一見すると経済的に非合理

このビジネスモデルが面白いのは、個々の店舗ごとに考えると、一見経済的に非合理的な行動をしていることです。そのため、店舗の売り上げをわざと落とすということがこのモデルを採ることを躊躇させる心理的なハードルとなっています。

普通の経営者であれば、1店舗当たりの売り上げを最大化しようとするでしょう。この合理性の誘惑に勝てず、距離を取った出店をするとどうなるのか。少なくとも当初は、機能するように見えるでしょう。しかし、こうした合理性の罠にはまって店舗間の距離を大きく取り、売り上げを最大化しようとしたとき、このビジネスモデルの崩壊が始まるのです。

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