しからば、本当に消費税を10%に上げてしまってよいものかどうか。この問いに対する答えはまた別で、筆者は「たとえ7~9月期が高めに出たとしても、慎重に検討するべき」だと思う。慎重に、とは消費税増税法案の付則18条を適用した一時凍結も除外せず、という意味だ。
景気の先行きに、3つの不安定要素
正直なところ、筆者は6月までは景気の先行きを楽観していたのだが、天候不順とともに7月から不安を感じ始めた。理由は以下の3点である。
① 消費税増税は何とか消化しつつあるが、久々の物価上昇が家計に響き始めている。
② 輸出が相変わらず増えず、生産の動きも今一つである。
③ マレーシア機撃墜問題(7月17日)を契機に、国際情勢の不透明感が増してきた。
まずは物価上昇で、脱デフレが軌道に乗りつつあるのは結構なことだ。が、久々の物価上昇に対する戸惑いもある。特に地方へ行くと、「リッター170円台のガソリン価格は痛い」「年金世帯に物価上昇はきびしい」といった声をよく聞く。景気ウオッチャー調査の7月分を見ても、現状判断DIは改善しているとはいえ、「実質賃金の上昇が追い付かない」「価格高騰が続き、経営が圧迫されている」といったコメントが目につく。
次に生産に関するデータが振るわない。円安が続いているにもかかわらず輸出は低調である。特にアジア向けが不満足な水準にとどまっている。昨今は全世界的に、貿易が低調であるとも言える。企業の設備投資も、1~3月期に盛大に伸びた後が続かない。さらに4~6月期の在庫投資が増えているのも、意図せざる在庫増加を示唆しているのかもしれない。
それに加えて「地政学的リスク」がある。ウクライナ問題や中東情勢の混乱次第では、石油価格の高騰、安全通貨としての円資産買いによる円高の進行、貿易量のさらなる減少などの事態が考えられる。これらは言うまでもなくヤバイ(オヤジ世代の意味として)。全体として景気回復の基調は崩れていないものの、ちょっと嫌な感じが漂い始めたのである。
ところが政府の「月例経済報告」は現金なもので、4月に基調判断を下方修正し、5月と6月は据え置いた後に、7月になって上方修正してきた。つまり「4~6月期は捨てて、7~9月期で勝負」というシナリオ通りの進行である。
これはちょっとマズイ。景気の先行きを読むときは、虚心坦懐にして謙虚であるべきである。「ここはこう来てくれないと、俺が困るじゃないか」式の身勝手な読み筋は、得てして外れて痛い目を見る。もちろん当コラムを愛する競馬ファン諸氏には、その辺は「釈迦に説法」であろう。
ということで、今年下半期の景気は慎重に見ていくべきだろう。仮に「景気が持たんぞ」ということになった場合、どうすればいいのか。これだけ人手不足が鮮明になってくると、景気対策で公共投資を積み増ししても、ちゃんと執行されるかどうかがわからない。12月の再増税検討期に向けて、今から「プランB」を考えておく必要があるのではないか。ちなみに軽減税率っていうアイデアはダメですよ。あれは金持ちの方が得する政策ですから。
ついでに言っておくと、同じ時期には与党税制調査会で法人減税の議論も行われるはずである。「庶民に増税して、企業は減税か」というお馴染みの議論が出てくることだろう。年末の税の論議は、つくづく心しておかねばなるまいて。
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