20年経った今語られる「捜索救助犬たちの9.11」 生存者の捜索だけでなく、人々を癒やした存在

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「展示では、捜索救助犬の明るい面やポジティブな成果も取り上げます。例えば、1950年代にシエラネバダ山脈で立ち往生した列車に乗っていた人たちを救ったレックス・オブ・ホワイトウェイのこと。また、セントバーナードホスピスで雪崩に巻き込まれた人々の救助にあたった、非常に有名なバリーなどのセントバーナード犬のことも取り上げます」

この展示は、ロウアーマンハッタンの9/11メモリアル&ミュージアムの「K-9 Courage (K-9犬たちの勇気)」と題された、2020年1月にオープンし、現在も開催中だが、パンデミックのためにほとんど人に見られていなかった臨時展示に続くものである。

「K-9犬たちの勇気」は2022年の春まで開催され、写真家シャーロット・ドュマによって2011年にテロの10周年を記念して撮られた、グラウンドゼロの復旧活動を支援した15匹の犬の肖像写真が展示されている。その犬たちが瓦礫の中で活動する写真も紹介されている。

「老いた犬たちの目をのぞき込んでみると、当時の記録写真からも推察して、その目が何を見てきたのかを想像することができます」と、博物館の最高責任者で館長のアリス・M・グリーンワルド氏は言う。

「でも、彼らが奉仕の人生を歩んできたのだということもわかります。そして、それは犬にとっても人間にとっても、きっと幸せなことなのではないでしょうか」

テロ直後にさまざまなところからやってきた

テロリスト集団のアルカイダが2機の飛行機をハイジャックして、世界貿易センタービルに衝突させ、102分の間に2つの建物を倒壊させたとき、約2753人もの人々が命を失った。

刺激臭のある塵の雲がロウアーマンハッタンを覆い、国が喪に服した。しかし、その時、国中から数百の捜索・レスキュー隊がグラウンドゼロに降り立ち、生存者の捜索に加わった。最初に到着した犬は、ニューヨーク市警の都市捜索救助隊から来た警察犬で、南棟の倒壊からわずか15分後に現場に駆け付けた。

集まったチームたちは、平均で10日間続けて、1日12時間働いた。

ニューヨーク市警の報告によると、瓦礫の中から生存者は見つかったものの、それらは捜索救助犬の直接の発見の結果ではないとのことであった。しかし、何人かの人は、引退したトラッカーという名の警察犬が、1件の救助に関わったと証言している。

ロン・バーンズによる「オット」(写真:Ron Burns, via AKC Museum of the Dog)

トラッカーの調教師であるカナダ人の警察官は、ノバ・スコシアから車で運転してきたのだが、所属する部署の人にテレビで救助活動に加わる姿を見られて、許可なく仕事を離れたことを理由に停職させられた(のちに、ジェーン・グドール氏は彼に人道支援サービス記念賞を授与した)。

フィラデルフィアの「ペン・ベット・ワーキング・ドッグセンター」の院長で、グラウンドゼロで捜索救助犬の世話にあたったシンシア・オットー獣医師によると、ほとんどの場合犬たちの怪我は、肉球や脚やお腹の切り傷やかすり傷、それに倦怠や熱による疲労など、「ごく軽傷」だった。

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