ロシア反体制リーダーが受ける獄中「心理的拷問」 ナワリヌイが初めて語った獄中生活の実態

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「すべてが周到に整えられ、私は毎日24時間、最大限の管理下に置かれている」とナワリヌイは述べた。ほかの囚人から暴行や脅迫を受けたことはないそうだが、ナワリヌイの見立てでは、囚人の3人に1人はロシアの刑務所内で「活動家」と呼ばれる存在、つまり刑務所長への密告者だ。

投獄後の数週間、ナワリヌイは手足の感覚を一部失っていた。神経剤による中毒症状の後遺症か囚人護送車の中で腰に負ったけがが原因とみられる。さらに24日間のハンガーストライキを決行したことで、健康状態が強く懸念される事態となっていた。

ナワリヌイは夜間の就寝中も「逃亡を計画していないことを確かめる」という名目で1時間おきに起こされていたが、それが止まると神経症状は和らいだ。

「睡眠遮断がなぜ工作機関のお気に入りの拷問手法なのか、その理由がわかった」とナワリヌイ。「痕跡をまったく残すことなく、絶えられない苦痛を与えられるからだ」。

弾圧強化で広がるプーチンの墓穴

45歳のナワリヌイは、政府が反体制派やニュースメディアに対する締め付けを強める中、ロシアの政治シーンで自身の存在感を保つのに苦労していると認めた。

ベラルーシで昨年、大統領選挙の不正に抗議する大規模デモが広まったのを見て、クレムリン(ロシア大統領府)は恐怖感を強めたのではないか、という見解を示した。

ナワリヌイ陣営が呼びかける「賢い投票」という選挙戦術も、プーチン政権の不安の種になっているという。今月行われる地方選挙と下院選挙で勝ち目のある対立候補を推薦し、そこに票を集注させる戦術だ。

ナワリヌイによると、クレムリンはこの選挙をあまりにも恐れるあまり、今年に入ってからナワリヌイ陣営などの活動家だけでなく、穏健な野党政治家や市民団体、メドゥーザ、プロエクト、ドーシチといった独立系のニュースメディアおよびテレビ局にまで弾圧の手を広げるようになった。

ナワリヌイは、弾圧はプーチンに戦術的な成功をもたらすかもしれないが、長期的には足を引っ張る要素になるとみる。

「プーチンの戦術は、ドゥーマ(下院)でわれわれに過半数を奪われないようにする、というものだ。だが、それを成し遂げるために、政治システムを完全に変え、これまでとは大きく異なる、はるかに厳しい権威主義体制にシフトしなければならなくなった」

こうした動きにより、プーチンの政治体制の大きな弱みが浮き彫りになったという。「ロシアに反体制派が存在するのは、アレクセイ・ナワリヌイやほかの誰かが本部で指揮を執っているからではない。そうではなくて、国民の3割、主に学歴があり都会に住む人々の意見が政治に反映されていないからだ」。

=敬称略=

(執筆:Andrew E. Kramer記者)
(C)2021 The New York Times News Services

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