「自宅葬」コロナ禍の今、じわり注目を集める背景 「家族だけでゆっくり見送り」を希望する人も

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2021年1月から8月までで前年同期比70%増と自宅葬の件数が大幅に増えている背景について、①テレビなどで取り上げられたことにより県外からの依頼が増加、②友人らを呼ぶために葬儀場での葬儀を検討していた遺族でも、密を避けるなどを理由に自宅を選びやすくなった、③病院に入院してコロナ禍で面会できなかったために、最後は自宅から送りたいという遺族もいる、ことだという。

同社が提案している自宅葬の特徴の1つは、故人を自宅に安置している期間を長めにとって、ゆっくりと見送りができるようにしていること。葬儀は通常は、2~3日ほどだが、同社では平均5日と長くなっている。もう1つの特徴は、葬儀を、葬儀社主導ではなく、遺族が望むことを遺族自身で創るようにしている。具体的にどんな葬儀が行われているのか、聞いた。

・喪主の息子は亡くなった母親を長年介護。その間にお世話になった介護従事者などを自宅に招き、母親が生前好きだったハヤシライスでもてなした。
・母親が逝去。亡くなる2年前に自宅で転倒骨折し緊急入院。入院中に反対の足を骨折。認知症も悪化し、自宅に帰れぬまま永眠。亡夫の葬儀の際、安置していた自宅の仏間に安置。手芸が得意な故人を見て育った2人の娘が、棺や骨壷などに手書きの絵などを施した。
・病院で治療を尽くしたが、コロナ禍で面会もままならず母親が逝去。せめて葬儀は家族で自宅から見送りたいと自宅へ。納棺作業なども孫たちを含む家族みんなで手伝い、母親の好物を中心に思い出のメニューを作り家族全員で最後の晩餐を行った。

このように、形式にとらわれず、遺族が望むかたちで葬儀を執り行うのが自宅葬の特徴だ。

2019年に開業した自宅葬専門の葬儀社

葬儀社各社の葬儀請負業として12年間働いてきた保坂知範さんが、「東京自宅葬儀社 燈」(東京都足立区、以下 燈)を開業したのは2019年5月である。その背景について、保坂さんは次のように話す。

「たくさんの葬儀に携わってきた中で、遺族の方々から、参列者への対応に追われ、故人とゆっくりお別れができず、何が何だかわからないうちに終わってしまったなどのご意見をたくさんお聞きしました。

悲しみや喪失感を抱えた状況で、普段は行かない場所から送り出すのでは、何が何だかわからなくなるのは当然です。だからこそ、いつもの自宅から送り出す。そして、家族だけの時間を大切にしたいと考えて開業しました」

直近の2021年1月から8月までの同社の施行件数(自宅葬7割、葬儀場葬3割)は、前年同期比30%増だった。昨年は、独立する前に葬儀を行った遺族からの紹介が中心だったが、今年はそれに加え、コロナ禍のため斎場で行うのは不安なので、自宅で行いたいという依頼が増えている。

同社が行う葬儀の特徴は「家族主体」。保坂さんによれば、葬儀は、葬儀社が主体になっていることが非常に多い。「斎場はどこにしましょう」、「ここの斎場は何人くらい入るから祭檀はこれくらいのものを」といったように、葬儀社主体でどんどん進められて金額が増していくという。

これに対し保坂さんは、「家族がどうしたいのかを本音で聞かせてもらい、それを実現するために弊社はそのお手伝いをする。その葬儀は、他の家族から見ると特別なものに見えるかもしれませんが、その家族にとっては『わが家らしい葬儀』というのが当社の葬儀の特徴です」と語る。

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