保育を「規制緩和」したらロクな事にならない理由 待機児童の解決策は家庭への直接投資しかない

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それを東京都に例えると、認可外保育園の運営に少なく見積もった計算でも子ども1人当たり30万円/月がかかっています。規制緩和し認可外の保育園(企業型NPOや株式会社)を乱立させ、託児を保育と主張するなど保育の基準をあやふやにして質の低い保育で保育士も低賃金で働かせるのならば、前述の「お母さんはどうするんだ」への回答としては、「月々の賃金×67%(育休手当)+30万円」を毎月家庭に「直接投資」すればいいのです。筆者の調査では、2歳までは家で子どもをみたいという人が過半数以上いました。子育て広場など、気軽に行けて親が休める場所が必要なのは言わずもがなですが……。

必要なお金を家庭に渡し、キャリアが途切れない、不都合な扱いを受けない労働環境をしっかりと保障する法制度を作れば、保育利用者数は減るので、待機児童が解消するのです。

規制緩和して崩壊したインフラは元に戻らない

首都圏では行政が考え支出している保育士の給与は加算(処遇改善加算など)を加えるとおおよそ年500万円を超え、特に東京都は560万円を超えます。しかし実際には380万円程度の支給という中抜きをされている現状です。もちろんしっかりしたNPOもあります。ある都内のNPOは保育士に500万円以上給与支給していると根拠を見せて説明してくれました。事務を効率化しその分保育士の待遇を上げ長期に働ける体制を整えることが結果的に子どものためになるとの信念です。

いつも決まった保育士が関わり、七夕や運動会などのイベントを大事にしているということです。保育士に副業させたり、不定期のスポット保育士など子どもを不安定にさせることはしないということです。NPO保育園はやりがい搾取のところが多いのは事実ですが、なにより子どものことを考えているNPO保育園があることもぜひわかってほしいといわれました。

しかしそういう園は経営が厳しく、ブランディング予算もないためステークホルダーの目に留まらず、良質な園は運営の危機になってきています。人件費率が高いためです。良質な園がなくなれば後は企業型NPO/株式会社の保育園しか残りません。

「悪貨は良貨を駆逐する」です。一度緩和して崩壊したインフラは元に戻りません。そもそも保育士は自治体の保育職職員として、保育園だけではなく、1歳半検診など保健センターの各検診、児童福祉部局で育児不安の相談業務など地域の顔として活動していたのです。それを規制緩和で非正規の保育士を増やしてしまったのです。

保育士は女性が多いのですが、「女性の社会進出」と言いながら、安い賃金でこき使う経営実態はいかがなものでしょうか。

和田 一郎 獨協大学国際教養学部教授

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わだ いちろう / Ichiro Wada

筑波大学大学院人間総合科学研究科(社会精神保健学)修了。博士(ヒューマン・ケア科学)。専門はデータサイエンス。社会福祉士、精神保健福祉士。人口減少社会における公共サービスの在り方、行政DXの活用や震災・疫病などの危機時における子ども等の弱者の支援におけるデータサイエンスの活用 などを研究している。

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