保育を「規制緩和」したらロクな事にならない理由 待機児童の解決策は家庭への直接投資しかない

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しかしながら社会環境の変化で待機児童が増加すると、それら保育園だけでは保育の需要が足りない状況になりました。そこで、待機児童の解消のために規制緩和をしたわけです。例えば保育園は自治体からの委託費がほとんどを占める公的なものなので、その支出にも細かい規制(人件費の保障など)があったのですが、規制緩和により株式会社やNPOの参入が認められ、さらにこの委託費の弾力運用が認められてしまったことです。つまり人件費として行政から計算されたお金であっても、それに使わないで他に使ってもよいということです。行政の計算では委託費の8割程度が人件費に計算されているにもかかわらず、実質的にはそれが保育士に支給されていない現状です。

10%のお金はどこに行ったのか?

研究として耐えうるよう実データの分析を今回はいたしました。保育の委託費は地域によってかなり異なります。よってある同じ地域の社会福祉法人とNPO/株式会社の比較をしてみました。

【委託費総額における人件費率】
・社会福祉法人/保育のみNPO:70%
・企業型NPO/株式会社:60%
【真の人件費率(保育現場職員の人件費率)】
・社会福祉法人/保育のみNPO:60%
・企業型NPO/株式会社:50%

興味深いのは保育園のみに特化したNPOの人件費率平均は、社会福祉法人と遜色ない給与を出しているところが多いところです。一方、利益のためにさまざまな福祉などの領域に多角的に進出しているNPO(以下、企業型NPOとします)は、株式会社レベルの人件費率の低さでした。よって真の人件費率で考えると、企業型NPO/株式会社は社会福祉法人より人件費が10%以上低いことがわかります。国の保育基準は最低限の基準であり、理解ある現場の経営者はよりよい子どもの保育のために、認可保育園では1カ所当たり数人多く雇用している現状が明らかになっています。

しかしながら企業型NPO/株式会社は総額の人件費が低く、認可保育園と同様に人を増やせばさらに給与水準が下がることから、保育士を多く雇用することなどはしていない、もしくは超低賃金で雇用しています。保育の質の定義というのは難しいのですが、各国の基準を参考に子ども1人当たりの保育士数と保育士の労働環境を保育の質と今回は定義すると、やはり企業型NPO/株式会社保育園の質に課題があると考えられます。

そしてこの人件費の差である10%はどこに流れたのでしょうか? 財務諸表などのデータを分析すると、企業型NPOはブランディングやマーケティングなどのNPOの価値を高めることや他の事業の補填に使われていること、また株式会社は保育事業以外の使用や配当等に使われていることが明らかになりました。本来は子どものよりよい保育、それに直結する保育士の給与として計算され支給されたお金が別の分野に使われてしまう。この10%の差額がまさに私たち福祉政策の研究者が敗北した証拠です。

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