「隕石が地球にぶつかる日」に向けた真剣な実験 地球に照準を合わせている隕石が実際にある
「地球からわずかにそれる程度かもしれないが、わずかにそらせられれば十分だ」とフリン博士。
コロラド州ボルダーにあるサウスウエスト研究所の惑星科学者ダン・ダーダ博士も、キネティック・インパクト・ディフレクションは有望かつ実現可能なテクニックだと話す。「SF(サイエンス・フィクション)のような技術は必要ない」。
フリン博士とダーダ博士は2003年、仲間の科学者たちとキネティック・インパクト・ディフレクションの限界を試すため、隕石に弾丸を撃ち込む実験を開始した。実験の目標は、小惑星を粉砕することなく伝えられる運動量を特定することにあった。小惑星が砕け散れば、今度はその破片が地球に衝突する軌道に乗るおそれがあるためだ。
隕石にぶつける隕石をどう手に入れるか
それまでに実験室で行われきた同様の研究のほとんどは、地球上の岩石に弾丸を撃ち込むものだった。しかし隕石は小惑星のかけらであるため、サンプルには隕石を用いた方がはるかに良いとフリン博士は言う。問題は隕石の入手方法だ。
「最後には粉々にするのだから、博物館の学芸員を説得して隕石の大きな塊を提供してもらうのは難しい」(フリン博士)
研究チームは何年もかけて32個の隕石を集めたが、大半は民間業者から購入したものだ(最大のものはこぶし大の大きさで、重さは約450グラム。値段は約900ドル、10万円近くした)。
集めた隕石のおよそ半数は、炭素と水分を比較的多く含む炭素質コンドライトと呼ばれる種類だった。残りは普通のコンドライトで、通常は炭素をあまり含まない。重要なのは、どちらも地球に最大のリスクをもたらす近地球小惑星を代表する種類だということだ(ベンヌは炭素質コンドライト)。
研究チームはカリフォルニア州にある航空宇宙局(NASA)のエイムズ垂直衝突銃施設(AVGR)というアポロ計画時代に建設された施設を利用して、高い速度での衝撃に小惑星がどう反応するかを確かめる実験を行った。AVGRは月のクレーターが形成される仕組みの解明に役立てるため1960年代に造られた銃施設。秒速4マイル(約6.4キロメートル)以上と、ライフルをはるかに上回る速度で弾丸を発射することができる。