この新結合の遂行は、後にイノベーションと呼ばれるようになった。ちなみに1912年刊行の『経済発展の理論』には「イノベーション」という言葉は登場しない。
昨今、このイノベーションという言葉は、技術革新を指して使用されることが多いが、それは狭義であって、本来は、結合によって新たな考えや手法を試みて、旧結合による独占を打破し、経済に新たな循環を生み出すことなのである。
買収の役割はこの新結合の遂行にある。買収は、企業にとって非連続な行動で、獲得した経営資源を自社に結び付けて、市場を開拓し、サプライヤーや販売会社を自社の供給連鎖に組み入れ、製品群を補完することで新たな事業を生み出す。
新結合は、その企業を業界リーダーに押し上げる
企業はこの新結合を実行し、市場構造を揺さぶることで、業界の再編を導き、新たな寡占を形成していく。企業にとって買収とは持続的な成長の糧ではなく、新たな循環の軌道を生み出す発展の道具なのである。
この新たな循環軌道を描けるかどうかが、買収の成否を左右する。前述の通り、買収といえば、買収時点での買収金額の大きさや話題性で評価されることが多いが、買収の成否は、新結合により業界のリーダー的存在まで自社を高められたかどうかを見るべきであると筆者は考える。
20世紀に自動車市場で長期的な寡占体制を築いたGM、そして21世紀の今、我々が目にしているデジタル市場で寡占を形成するグーグル、両社はシュンペーターが説いた新結合による経済の発展を体現した代表的な例であろう。
この両者に共通するのは、それを買収で実現したことである。買収で獲得した新たな事業を水平、垂直、そして混合の形で自社に結合していった。ビュイック、シボレー、キャデラック、これらは20世紀初頭にGMが買収したブランドであるが、100年以上経った今もGMの主力車種である。
グーグルは創業してまだ20年強だが、スマートフォンOSのアンドロイド、動画共有サービスのユーチューブ、後にグーグルマップとなるキーホールなど、その主力製品の多くはベンチャー企業を買収して製品化したものである。
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