グーグルの行った買収は創業から20年の間に234件にも上る。GMは成長期にあった自動車業界を買収によって再編し、グーグルは買収でデジタル市場の成長を主導することで、それぞれ20世紀と21世紀に新たな経済の循環を生み出した。
GMはおもに供給側における生産や購買で規模の経済を働かせ、他方グーグルは需要側においてネットワーク効果という形で規模の経済を機能させ、ともに寡占を形成した。
買収による寡占形成への道は単一ではない。本書では、日本企業の事例から導き出した5つの買収モデルを提示した。
この買収が十分に役割を果たすには、買収後の組織設計に工夫を凝らす必要がある。買収後の経営ではPMIという言葉が想起されることが多いが、買収後の組織設計に関しても、本書では新結合、すなわちイノベーションに連なる代表的な研究からヒントを得ることを試みた。
ジェームズ・マーチ氏は、企業が長期にわたって持続的な経営を実現するには、新たな事業の探索と、既存事業の深化を図る、2つの異なる能力を備え、その間に生じる矛盾や摩擦を克服することが不可欠であると説いた。両利きの経営である。
クレイトン・クリステンセン氏は、豊富な経営資源を備える大企業が、新興企業の挑戦の前に敗れ去る様子をイノベーションのジレンマとして描き、自社製品の深化を重ねる高い能力が、新たな探索の試みを妨げてしまうと指摘した。
この探索と深化という異なる目的の実行をバランス良く管理し、成果を挙げるにはどのような組織設計の選択肢があるのだろうか。
買収後に試される、両利きの経営能力
両利きの経営には探索と深化を逐次的に行う手法と、2つを同時に行う手法とがある。そして、同時に遂行する場合には、探索を目的とする組織と既存事業の深化を図る組織とを分離して管理する構造的アプローチと、組織を分離せず、その構成員が探索と深化を実行する文脈的アプローチがある。
これまでの研究によると、両利きの経営が成功するのは、新たな事業を探索する部門が、企業内で既存事業部門が有する顧客基盤などの経営資源を活用するケースである。
買収後の経営においても、対象会社の有能な技術者を維持し、現地の顧客基盤の毀損を回避しながら、重複を解消するためのリストラクチャリングは迅速に実行するなど、対象会社との間の矛盾や相反を抱えることになる。また、自社の経営資源を対象会社に提供することで相乗効果が生まれる点も両利きの経営の成功条件と重なる。
買収後の組織設計においても、対象会社の自主性を尊重し、組織を分離して管理するのか、それとも機能統合を優先して事業を吸収し非分離の組織設計を採用するのか、両利きの能力が試されることになる。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら