新型コロナ危機で日本に決定的に欠けていた視点 危機管理には「国家戦略」と「ドクトリン」が必須

✎ 1〜 ✎ 163 ✎ 164 ✎ 165 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

国際的能力は、国内戦線と世界戦線の同期性という感染症危機管理の特性に照らし、必須の能力である。感染症危機に対する事態対処行動の指揮官は、外国語を解し、外国政府や国際機関との個人的ネットワークを有し、危機時に各国や国際機関との水面化でのハイレベルの調整の前面に立つことができるなどの国際的能力がなければ務まらない。

統治機構の知識は、事態対処行動における感染症危機管理組織の機動を操縦し、危機管理組織間の調整を推進するために必須である。すなわち、国家全体の感染症危機管理活動を統括する政府の戦略指揮官は、日本政府の統治構造について深く理解していなければならない。具体的には、各中央省庁の構造や特徴、政治力学である。また、戦術レベルの前線機関(医療機関、保健所、検疫所など)の統治構造や政治力学についても理解している必要があろう。

軍事的思考は、感染症危機管理の事態対処行動を機能させるために必須である。具体的には、事態対処行動の指揮統制に関する深い理解が必須だ。指揮統制は、危機管理組織の神経系統である。それがなければ、感染症危機管理組織による事態対処行動はまひしてしまう。指揮統制は、指揮官の適時適切な決断と、その実行を支援すると同時に、事態対処行動を構成する全機能の横の連結性を高め、危機管理組織の全序列にわたる縦の連結性を高めるのである。

感染症危機管理の三階層

感染症危機管理は、原則として政府が主導し、政府が最終責任を有する特性のものであるものの、政府機関の能力のみで感染症危機管理を成功に導くことはできない。

しかし、そうはいっても、国家的規模の事態対処行動においては、政府を中心として国土全体にわたる組織的に統一された活動が必要であり、そのためには、事態対処行動における手法の「標準化」が不可欠である。しかし、「標準化」は、時に思いもよらぬ情勢変化に迅速に適応できない原因になりうるし、全国各地の地域の事情に即した対応が求められることもある。したがって、「標準化」と同時に「柔軟性」も担保せねばならない。一見すると、「標準化」と「柔軟性」は対極に位置する概念に思える。この相互に矛盾する概念を同時に達成するためには、事態対処行動の「集権的統制と分散型実行」が必要となる。

事態対処行動の「集権的統制と分散型実行」について理解を深めるためには、「感染症危機管理の三階層」を理解し、この三階層の区別をつねに意識することが有用である。

「感染症危機管理の三階層」は、「軍事の三階層(Three Levels of War)」と同様の概念である。軍事組織は、軍事行動を戦略レベル(Strategy)・作戦レベル(Operation)・戦術レベル(Tactics)という「軍事の三階層」に整理・区別し、それぞれ、戦争における軍事行動全体のデザイン(設計)、個別計画の策定、個別計画の実行といった機能を遂行する役割を担っている。

次ページ三階層の区別を意識することで可能になること
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事