WHOが中国に「踏み込みきれない」本当の理由

忖度云々以前に、強い権限を持っていない

WHOのテドロス事務局長は、新型コロナウイルス発生以来、中国に「忖度している」と批判され続けているが…(写真:Stefan Wermuth/Bloomberg)

先般、中国・武漢で行われたWHO(世界保健機関)による新型コロナウイルスに関する現地調査に対して、「信用ができない」「踏み込みが足りない」という声が少なくなかった。WHOをめぐっては、新型コロナウイルス発生当初から、中国に対する”監督”が甘いとする見方が少なかったが、その背景にあるものを安全保障・危機管理の国際的レジームが抱える問題という観点から考察する。

新型コロナ発生時何があったか

時は江戸。日々の生活に精一杯の庶民をよそに、長い権力の座と金権政治に慣れすぎた幕府の要人たちは、法の抜け穴を熟知し、悪事を重ねていた。悪事の証拠は隠滅され、法の力で裁く表奉行たる北町奉行の力が及ばない。名時代劇「闇を斬る!大江戸犯科帳」では、闇奉行・一色由良之助が法で裁けぬ悪を斬り捨てる――。

法の抜け穴や不備、濫用は、いつの時代でも存在する。それは、新型コロナ危機に喘ぐ現代でも同様だ。

国際社会における感染症危機管理の法は、国際保健規則(IHR)。それを運用する表奉行は、世界保健機関(WHO)。新型コロナ危機の初動について、あくまで一説に過ぎないが、以下のような事態が発生したのではないか、とも当初は考えられていた。

アメリカ:「中国は、新型コロナの発生がわかっていたのに、すぐにWHOと国際社会に対して事態を通報しなかった!」
 中国:「いや、事態が判明してすぐに通報しましたよ」
 アメリカ:「そんなはずはない。かなり遅かったではないか」
 中国:「法には違反していません」
 アメリカ:「?」
 中国:「国際保健規則に書いてあるルールをちゃんと見てください。未知の感染症情報について、ずっとその真偽の程を『アセスメント』していたのですよ。これに時間がかかりましたが、アセスメントの結果が出てから24時間以内には、すぐにWHOに通報しました。法には違反してないですね」

以上のやり取りはあくまで想像に過ぎないが、ここで言うところの法とは、国際保健規則第6条「通報」である。この内容は以下のとおりだ。

各参加国は、公衆衛生上の情報をアセスメントした後24時間以内に、決定手続に従い自国領域内で発生した国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を構成するおそれのあるすべての事象およびそれら事象に対して実施される一切の保健上の措置を、IHR 国家連絡窓口を通じて、利用できる最も効率的な伝達手段により、WHO に通報しなければならない。
次ページ法の解釈によっては…
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