高齢者の「賃貸入居」を難しくする3つの阻害要因 「住宅難民問題」の解決にはたして道はあるのか

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では、なぜ高齢者が入居を拒まれるのだろうか。(公社)全国宅地建物取引業協会連合会(以下、全宅連)不動産総合研究所の岡崎卓也さんに聞いてみた。

全宅連では、4年前から「住宅確保要配慮者等のための居住支援に関する調査研究」に取り組んできた。住宅確保要配慮者とは、住宅の確保が難しいといわれる高齢者や低額所得者、障害者、外国人などだが、なかでも対象者数が多くて日常的に接することの多い「高齢者」について、居住支援のための調査研究を進めてきた。

岡崎さんによると、全宅連に所属する不動産会社各社への調査を進めたところ、高齢者の入居を妨げる要因として、主に3つの課題が挙げられたという。

(1) 入居時の不安:何かあったときに対応してもらう「連帯保証人」や「緊急連絡先」が確保できるか
(2) 入居中の不安:認知症など判断力が低下した場合、どう対処したらよいか
(3) 賃貸契約終了時の不安:亡くなったとき、特に孤独死などが起きた場合に、賃借権の相続の解消や残置物の処理に手間がかかり、次の入居に支障があるのではないか

こうした不安が阻害要因となって、貸主(大家)が貸したがらない、不動産会社が住宅の斡旋をしたがらないといった事態になり、高齢者が賃貸住宅の入居を拒まれるという結果になっているのだ。

このような実態を受けて全宅連では、高齢者の入居に際して、「入居審査」や「賃貸借契約」の際の注意点をまとめたガイドブックを作成し、室内の異常に早期に気づくための高齢者の見守り機器の設置を勧めたり、孤独死などで発生する原状回復費用や残置物の処理費用、次の入居までの空室等の家賃保証などに対応する保険への加入を促したりといった、不安を払拭する方法を提案している。

さらに、認知症や健康上の問題については、介護・医療・法的専門家などとの連携が必要なため、福祉事業者等とのネットワークの構築も提案をしている。こうした不動産業界の努力でカバーできることもあるが、一方で、不動産業界の頑張りだけでは対応できない大きな課題も残っている。

孤独死で事故物件と扱われるのが最大の不安

例えば、室内で自殺や他殺、事故死などが起きたり、近隣に暴力団の事務所などがあったりすると、そこに住むことに嫌悪感を持つ人がいる。これを「心理的瑕疵(かし:欠陥や傷などの意味)」という。宅地建物取引業法では、不動産会社は契約の判断に影響を及ぼすような重要な事実を告知する義務があるとしているが、心理的瑕疵もこの重要な事実に含まれる。

現状では、孤独死も心理的瑕疵に該当すると考える人が多いため、それを告知することになり、そうなるといわゆる「事故物件」として、次の入居者が決まらなかったり、家賃を下げざるをえなかったりする。貸主にとっては、家賃の値下げや空室期間の長期化は避けたい事態なので、高齢者の入居に不安を感じる大きな要因になる。

高齢者の自然死は日常起こりうることなので、孤独死は心理的瑕疵に該当しないという考え方もあるが、孤独死で発見が遅れる場合もあって、その場合は異臭などの問題も発生する。現状では、心理的瑕疵の法的な基準が定まっていないことから、不動産会社によって告知する内容などが異なるというのが実態だ。

全宅連は心理的瑕疵の考え方を整理し、行政に働きかけた。国土交通省も、2020年2月に「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」を設置し、2021年4月に「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」(案)を取りまとめた。

ガイドラインの案によると、住宅における自然死については原則として告知は不要とするが、「死亡後に長期間放置されたことで室内外に臭気・害虫等が発生し、いわゆる特殊清掃(原状回復のために消臭・消毒や清掃)等が行われた場合」には告知を要する、などとしている。ガイドライン案は、パブリックコメントを経て修正のうえ、秋には決定する見込みだ。

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