「アフガン撤退」ショックがアメリカに残す傷 専門家語る「サイゴン陥落」との類似点と相違点
前出のカウィー氏も、「アフガン人がアメリカ軍とともに国外脱出を試みる光景は、陥落するサイゴンからの脱出劇と確かに重なって見えるが、実際は違う」と話す。「ベトナム戦争は当時、政治、反体制運動、ポップカルチャー、選挙など、あらゆるものの中心にあった。それに対し今回は、アフガンやイラクの情勢に関心を持っている人はほとんどいなかった」。
そうした無関心の理由として、『After Saigon’s Fall:Refugees and U.S.-Vietnamese Relations, 1975-2000(サイゴン陥落後:難民と米越関係 1975〜2000年)』の著者でバージニア工科大学のアマンダ・C・デマーは、次の2つを挙げる。
第1の理由は明らかだ。ベトナム戦争時にアメリカでは何百万人という人々が徴兵されたが、アフガンでの戦争を戦ったのは志願兵で、人数もはるかに少なかった。今回の戦争で直接苦しんだ人々を知っている国民は、ベトナム戦争のように多くはなかったということだ。さらに徴兵によって無理やり戦わされた国民がいなかったため、アフガンでの戦争は道義的にもベトナム戦争とはかなり違った受け止め方をされていた。
第2の理由は、アフガンとベトナムでは国民が知る情報とその情報源がまるで異なっていたことだ。
アメリカの内向き志向はさらに強まる
デマーは「ベトナム戦争に関しては、どこからニュースを得ているかにかかわらず、国民の誰もがほぼ同じ報道を目にしていた」という。ところが、「アフガンに関心を持ち続けていた(あるいは情報を追いかけざるをえなかった)人々は、まったく異なる情報の中から自分の見方に合致する情報だけを選び、自分の見方を補強する情報ばかりに身を浸すことができた」。
要するに、50年前はメディアが一枚岩だったことがアメリカの国民的な内省につながったが、今はそうした国民的な議論の土台はなく、一貫した事実の共有すらおぼつかない。国民的な内省がはるかに起こりにくくなっているということだ。
しかし、だからといって、大混乱のアフガン撤退がアメリカに傷を残さないということにはならない。
中東で延々と続く戦争を受けて、国民の内向き志向はすでに強まっている。アフガン撤退の光景はアメリカの孤立主義を強め、党派対立を激化させる方向に作用すると『The Hardhat Riot:Nixon, New York City, and the Dawn of the White Working-Class Revolution(ブルーカラーの保守暴動:ニクソンとニューヨーク市と白人労働者階級革命の夜明け)』の著者デビッド・ポール・クーンはみる。
「今も当時と同じく、アメリカは国内の分断から疲弊が進んでいる。長期にわたる戦争からの撤退により、アメリカの国際的な存在感は薄らぐことになる」とクーンは言う。「私たちはかつてのベトナム症候群と呼応する、アフガン・イラク症候群の時代を生きている。アメリカは内向き志向を強めているが、この点は当時も同じだった」。
(執筆:Clay Risen記者)
(C)2021 The New York Times News services
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