「アフガン撤退」ショックがアメリカに残す傷 専門家語る「サイゴン陥落」との類似点と相違点

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アメリカが今後、当時と同様に右傾化する可能性についてカウィーは断言を避けたが、トランプのような政治家がまたしても「アメリカを再び偉大にする」という公約を掲げて大統領選に出馬する展開は容易に想像できる。

エモリー大学の教授(法学)で『War Time:An Idea, Its History, Its Consequences(「戦時」とは何か:その歴史と帰結)』の著作を持つメアリー・L・ドゥジアックも、カウィー同様、アメリカの反省は長続きしないとみる。

「アメリカの政治文化の中では、軍事的な自制の強化がおろそかにされている。そうした状況に向き合わないという失敗が今回も繰り返されることになるのだろう」。ドゥジアックは、それがサイゴン陥落とアフガン撤退の「類似点の1つになると考えている」。

戦争に関して大統領が有する権限に対し、緻密な議論を継続的に進めることもできるはずだが、実際にはそうした可能性は「アフガンで負けたのは誰のせいか」という非難合戦で立ち消えになっているという。

ドゥジアックが言う。「共和党は今回の件をバイデン大統領に対する攻撃材料にするだろう。ベトナム戦争後と同じく、アメリカには今、戦争政策の徹底的な検証が激しく求められているが、党派対立のせいでその機会が失われかねない」。

「無関心」という相違点

幅広い文化的な影響はどうか。

1970年代に政府の信用が失墜したのは、ウォーターゲート事件、公害、ベビーブーマー世代に広がる上の世代への全体的な不信感など、さまざまな要因が組み合わさった結果だが、ベトナム戦争はその中でも圧倒的に大きな影を落としていた。戦争の影響が多くの国民に及んだだけでなく、「戦争に勝つ」というアメリカ政府が最も得意としていることに失敗したという事実に鋭い光が当てられた。

もっとも、現代の国民は当時よりは政府に冷めている。そのため、アフガン敗走のインパクトはベトナムよりは緩やかなものになるのではないか、とベイラー大学の宗教史学者で『Decade of Nightmares:The End of the Sixties and the Making of Eighties America(悪夢の10年:60年代の終わりと80年代アメリカの誕生)』の著者フィリップ・ジェンキンスは話す。

「ベトナムは違った。1つには、アメリカがそれまでに経験したことのない敗北だったからだ。当時の国民にとっては想定外の事態といえた。それに対し、今回(のアフガン撤退)は、このような事態になることが、大体予測できていた」

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