「愚かな失敗」に終わらせないための組織風土 科学者と経営者の「輝かしい失敗」から学ぶ

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結局、いずれのプロジェクトもメンバーたちはプレッシャーから解放され、思う存分、能力を発揮して〝輝かしい成功〟に至った。仮に失敗しても、輝かしい失敗になったはずだ。

失敗を恐れると、「⑩深く刻まれた渓谷」から抜け出せず、「⑨捨てられないガラクタ」を持ち続け、試行錯誤をして「⑦電球の発明」に至ることができなくなってしまうのだろう。

稲盛和夫氏の失敗観

はたして、自分の会社は輝かしい失敗が生まれる組織風土になっているか。輝かしい失敗研究所では、次の3つの評価項目を設けている。

・実験……意思決定と行動において、リスクをとる自由度はどこまであるか。
・学習……成功と失敗の両方から学んでいるか。
・進化……どのくらい学習経験が活かされ、新しい洞察を踏まえてアプローチが変わったか。

なかでも重要なのは、次の「実験」に向けた「進化」だろう。イスケ氏は学習方法についても、失敗により習得した知識を活かし、より高次なレベルへと達するスパイラル状の成長を重視する。

筆者は以前、前出の鈴木氏と、同じく日本を代表する企業家である稲盛和夫氏(京セラ創業者)との対談で進行役を務めたことがある。その際、2人に「仕事で失敗したらどうしたらいいか」という質問にどう答えるかと、聞いてみたことがある。

中国哲学に詳しい稲盛氏は「有意注意」。つまり、失敗しないためには漫然とした無意注意ではなく、目的を持って意識や神経を対象に集中させる。一方、実務派の鈴木氏はこう答えた。

「失敗したことは早く忘れろ。忘れて仕切り直せ」

対照的に見えるが、2つを合わせると、輝かしい失敗の〝極意〟が浮かび上がる。

仕事上の失敗は誰もが平気でいられないから、そう簡単には忘れられない。ただ、失敗したことを気にして、とどまっている限り、先へは進めない。だから、早く忘れて、次の挑戦(実験)へと一歩踏み出す。

挑戦していけば、前回の失敗から学習したことがプラスに活かされていく。無意注意ではなく、「今度はこれを目指してやっていこう」と有意注意で臨めるようになる。

「実験→学習→進化」のプロセスが埋め込まれているかどうか。〝愚かな失敗〟で終わるか、輝かしい失敗が生まれるかは、多分に組織風土によるようだ。伊右衛門の開発リーダーが新たな挑戦に踏み出せたのも、サントリーに「やってみなはれ」と、失敗した社員にもチャンスを与える文化が根づいていたからだ。

あなたの属する組織はどうだろうか。

勝見 明 ジャーナリスト

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かつみ あきら / Akira Katsumi

1952年神奈川県生まれ。東京大学教養学部中退。フリーのジャーナリストとして、小売からメーカーまで、企業の成功事例を数多く取材。経済・経営分野で執筆・講演活動を続ける。専門はイノベーションを生む組織行動、リーダーシップ論。主な著作に『共感経営』(共著、日本経済新聞出版)、『新装版 鈴木敏文の統計心理学』(プレジデント社)などがある。

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