「愚かな失敗」に終わらせないための組織風土 科学者と経営者の「輝かしい失敗」から学ぶ

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失敗には次の2つのタイプがあるとイスケ氏はいう。

・タイプ1……意図した結果と違うが、依然として価値があり、ときには意図した結果を上回ることもある。つまり、セレンディピティ(重要なことを偶然発見する)になる。上記の「⑬ポスト・イット」に該当。
・タイプ2……当初に意図したほどの価値は生み出せなかったが、学習体験を積める。

この分類によれば、田中氏の失敗はタイプ1となる。がんの免疫療法の新しい薬剤を開発し、医学・生理学賞を受賞した本庶佑氏(京都大学特別教授)もそうだ。本庶氏は血中リンパ球の一種であるT細胞に見られる特異な現象を起こす分子を見つけようとした。しかし、見つからず、偶然、別の分子を発見する。それが突破口となった。

リチウムイオン電池の発明で化学賞を受賞した吉野彰氏(旭化成名誉フェロー)の失敗はタイプ2だ。1981年にリチウムイオン電池の研究を始めるまでの7年間、吉野氏は新しいシーズ(製品の種)を見つける探索研究を続け、失敗を3回経験する。そこから教訓を学んだ。

「優れた研究をするには、ジェットコースターに乗りながら、ニーズの針穴にシーズの糸を通さなければならない」

常に変化する社会の動きを読みながら、10年先、20年先のニーズを的確に予測し、求められるシーズを見つける。その教訓をもとに探し当てたシーズがリチウムイオン電池であり、1995年にウィンドウズ95が発売されてIT革命が始まると見事にニーズに合致した。

柳井正氏の『一勝九敗』を分析する

続いて、ビジネスの世界に目を転じよう。

輝かしい失敗を重ねた企業家といえば、ファーストリテイリング(FR)の柳井正会長兼社長だ。「経営は試行錯誤の連続で、失敗談は限りなくある」「十回新しいことを始めれば九回は失敗する」。著書『一勝九敗』にそう記す。著書のなかから、例を拾ってみよう。

ユニクロが創業の地、山口県周辺から出店地域を拡大し、関東へ進出した1990年代半ばの話だ。FRはアメリカ・ニューヨークにデザイン子会社を設立した。ニューヨークで情報収集と商品企画をして、日本で新商品を設計し、中国などのメーカーに製造委託する。

ところが、投入した商品は日本では売れず、失敗する。原因はニューヨークの現地デザイナーと日本側スタッフとのコミュニケーションの欠如にあった。16の型の「⑤欠席者のいるテーブル」の状態をつくってしまったわけだ。

ユニクロの服はカジュアルウェアが中心だが、当時、スポーツウェアに近いものが売れていた。ファミリーで着るような商品も多かった。そこでスポーツカジュアル、ファミリーカジュアルを売る新たな業態「スポクロ」「ファミクロ」の展開を始めた。

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