「愚かな失敗」に終わらせないための組織風土 科学者と経営者の「輝かしい失敗」から学ぶ
しかし、1年も経たずに撤退を余儀なくされた。顧客の立場から見ると、本来なら1カ所ですむところを3カ所の店舗を回る必要が出てしまった。「③財布を間違う」で顧客に負担をかけてしまった。また、最初に成功すると、それが正しい一打と過信する「⑥熊の毛皮」型の失敗でもあった。
2001年にロンドンに出店した際は、「3年間で50店舗」を目指して、わき目も振らず拡張に走り、失敗する。柳井氏が発した目標が一人歩きして、「⑧兵隊のいない将軍」になってしまったのだった。
しかし、「失敗からの立ち直り」と題した一節ではこう記す。「問題は、失敗と判断したときに『すぐに撤退』できるかどうかだ」「儲からないと判断したら」「撤退もスピードが大事である」と。「⑨捨てられないガラクタ」を回避し続けたからこそ、今日に至る成長がある。
「伊右衛門」開発での「輝かしい失敗」
筆者は、野中郁次郎・一橋大学名誉教授と共同で「成功の本質」と題した連載をビジネス誌で19年間続けた。日本におけるイノベーション事例を100例以上取材したが、輝かしい失敗を経た成功事例も少なくなかった。一例をあげれば、サントリーの緑茶飲料「伊右衛門」の開発だ。
リーダーは、中国茶の一種、プーアール茶がベースの「熟茶」という商品で「社内史上最悪の失敗」を経験した。プーアール茶は発酵によるまろやかな旨みがあり、健康成分も多い。中国でも「神秘のお茶」と珍重されていた。
そこで、サントリーの技術が加われば、「究極のお茶」ができると成功を確信。しかし、通常の「売れない商品」の半分程度しか売れなかった。1年で生産中止へ。
競合相手は緑茶が強いが、サントリーはウーロン茶でメガブランドを持つ。「ならば、中国茶で勝負しよう。緑茶が〝旨味大で渋味あり〟なら、うちは〝旨味大で渋味なし〟で差別化しよう」とリーダーは考えた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら