自然消滅した「母さん助けて詐欺」命名の裏事情 振り込め詐欺の新名称をTwitterで募集した

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そして、ATMでの対策が進むと、また現金手渡し型が復活しました。このように、特殊詐欺は手口が循環して登場します。警察の対応といたちごっこになっているといってもいいでしょう。特殊詐欺が登場してしばらくは振込みがメインでした。

今でこそ「特殊詐欺」と呼んでいますが、当時はその手口から「振り込め詐欺」という呼び名がつけられ、これが全国的に広まり、特殊詐欺の公称となっていきました。ところが、現金手渡し型に手口が移行すると、振り込め詐欺は被害の実態を表していない、これでは注意喚起にならないのではないかとする議論が出ました。

ではどうするか。振り込め詐欺に代わる新しい名称を考えようとなりました。広報啓発なのだからお前のところでやれと下命され、私が企画を担当することになりました。私としても振り込め詐欺に変わる名称を作ることに異存はありませんでした。手口の実態を表していない呼び方では被害防止につながらないという考え方に同調できたからです。

ツイッターで公募しよう!

どうやって新名称を作るのかは、下命を受けたときすぐに思いついていました。ツイッターで公募するのです。私は、もともと自分を含めた警察官のネーミングセンスに懐疑的でした。警察官に名称や標語を考えさせると絶望的にダサい名前になることを幾度となく経験してきていたからです。

「#振り込め詐欺新名称」のハッシュタグで新名称をツイートしてもらい、その中から選ぼうというものです。これをやれば、面白おかしく揶揄される、いわゆる「大喜利」状態になるのは必定です。それは、この企画を盛り上げてくれる原動力にもなりますので、むしろ歓迎するところでした。

ただ、応募方法をツイッターに限定してしまうと、ツイッターを利用していない人の機会を閉ざしてしまうことになります。そこで、郵送での応募も可能としました。ツイッターの中の人をやっていると、ツイッターの世界がすべてだと思いがちですが、実際のところ日常的にツイッターを使っている人はそれほど多くないことを自覚する必要があります。特に、公の機関であればできるだけ機会は平等に設けることを考慮しなければなりません。

入選作品には警視庁内の売店で売っているピーポくんグッズをお礼の品としてプレゼントすることにしました。

ところが、ふたを開けてみると予想していたほどの大喜利にはならず、意外にも皆さん真剣に考えて応募してくれていたようです。中には「いつ振り込むの? 今でしょ詐欺」といったような作品もあり、そこそこ大喜利としての盛り上がりがあって話題性の獲得としては大成功でした。

新名称案の公募が締め切られた後は、高齢者の意見と実際に紙面などで新名称を使うことになるであろうマスコミの評価を受けることにしました。高齢者の意見は、「おばあちゃんの原宿」とも呼ばれる東京巣鴨の巣鴨地蔵通り商店街にある、とげぬき地蔵で有名な「高岩寺」でアンケートを実施しました。マスコミに対する調査は、警視庁内の記者クラブに詰めている記者にアンケート調査を行いました。

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