自然消滅した「母さん助けて詐欺」命名の裏事情 振り込め詐欺の新名称をTwitterで募集した

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アンケートの結果、面白い現象が確認できました。高齢者のアンケート上位に入った名称は、いずれも特殊詐欺の特徴を高齢者側の立場で主観的に見たものでした。たとえば、「親心利用詐欺」のようなものです。これに対してマスコミの選んだものは、特殊詐欺を客観的に見ているものが上位を占めました。こちらの例としては「ニセ電話詐欺」といったものです。立場が異なると見えている景色も異なることが実感できる貴重な経験になりました。

事務局である私としては、新名称をマスコミ側のアンケート結果にウェートを置いて決めたいと思っていました。せっかく新しい名称を考えてもマスコミが使ってくれないようなものでは考えた意味がなくなってしまいます。

ところが、高齢者とマスコミのアンケートが終わったところで、もうひとつ調査を行うことになりました。犯罪抑止対策本部に所属する職員にアンケートを行うというのです。前述のように、私は警察官のネーミングセンスに懐疑的でしたので、ここで警察官の意見を入れてしまったら高齢者やマスコミにアンケートを行った意味がなくなってしまうと反対しました。しかし、残念ながら力関係で押し切られてしまい、職員に対するアンケートを実施することになりました。もう嫌な予感しかしません。

嫌な予感は的中

嫌な予感は的中しました。職員へのアンケート結果で上位を占めたのは、高齢者とマスコミのアンケート結果に含まれないものばかりでした。つまり、三者のアンケート結果が出てしまい、それもすべて異なる結果となってしまったわけです。どのアンケート結果から選んだらいいのかわからない状態です。私は、マスコミの客観的な見方を重視すべきだと繰り返し主張しました。

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さて、私が所用で平日に休みをとった翌日、いつもどおりに出勤すると上司から「新名称が決まったよ」と言われました。前日、つまり私が休みでいない日に新名称を決める予定はありませんでした。これはやられたなと思いましたが、アンケート結果の中から選ばれるのであれば私がいてもいなくても問題はありません。

上司から告げられた新名称は「母さん助けて詐欺」でした。

私は目が点になりました。「母さん助けて詐欺」は、どのアンケート結果でも上位に入っていなかったものです。つまり、アンケートをやった意味はなく、誰かの一存で決められてしまったのです。

誰が決めたのかは聞いていませんが、決定権を持っている人しかできないことですから聞くまでもありません。私は、アンケートをやった意味がないと上司に食ってかかりましたが、上司も「もう決まってしまったんだ」と苦々しく答えるしかありませんでした。

よくわからないプロセスを経て誕生した新名称は、歌舞伎座の地下にある広場でものまねタレントのコロッケさんをお迎えしてお披露目を行いました。マスコミを呼び込んで大々的にお披露目を行った振り込め詐欺の新名称「母さん助けて詐欺」は、その後一切使われることなく自然消滅しました。高齢者もマスコミも「これはいい」と言っていないのに定着するはずがありません。

中村 健児 フォルクローレ代表

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なかむら けんじ / Kenji Nakamura

1964年東京都生まれ。高校卒業と同時に警視庁に入庁。27歳の最年少で警部補に昇任。機動隊や警護課で警備警察に携わる。その後、警察署でヤミ金や知的財産権侵害事犯の取締りに従事。そこでの実績が認められ、ハイテク犯罪対策総合センター(現サイバー犯罪対策課)に異動。同所属で警部に昇任。東京都に派遣、都から警視庁に帰任後、犯罪抑止対策本部で警視庁初のツイッター公式アカウントを開設し、初代中の人を務める。2020年警視庁を退職後、ツイッター公式アカウントの運用請負を行うフォルクローレを設立し、代表に就任。ゼクト サイバー解析対策チーム隊長兼経営企画室長。日本イベント協会イベント総合研究所上級研究員も務める。

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