「反中国」に太平洋諸国を引き込めなかった日本 太平洋島しょ国の最大の関心事は環境問題で中国ではない

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日本は、第1次世界大戦以降、太平洋島しょ国の多くを委任統治し、パラオに「南洋庁」を置き行政の中心地にした。パラオは現在も外交・安保・財政を全面的にアメリカに依拠し、アメリカのこの地域の最重要拠点だ。

台湾が外交関係を持つ14カ国のうち、太平洋島しょ国はパラオやナウル、ツバル、マーシャル諸島の4カ国。2019年にキリバスとソロモン諸島が台湾と断交し、中国と国交を結んでおり、台湾にとってこれ以上の断交を防ぐ「外交防衛ライン」でもある。

サミットに話を戻す。主催国日本にとって首脳会議の目標は、島しょ国をFOIPにどれだけ引き寄せられるかにあった。日本は首脳宣言で、新型コロナウイルス対策として計300万回分のワクチン供与を2021年7月から開始する計画と、インフラ投資支援策を打ち出した。

導出できなかった「中国批判」

14の島しょ国のうち、中国が国交を持つのは10カ国と台湾の倍以上あり、首脳宣言で中国を名指し批判するのは難しい。坂井学官房副長官がサミット後に、中国や台湾の議論は「まったくなかった」と説明したのもそれを表す。首脳宣言の内容から島しょ国のポジションをみよう。(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100207978.pdf

日本とオーストラリアの主張が盛り込まれたのは次の2点。第1は首脳宣言第10項で「法の支配に基づく自由で、開かれた、持続可能な海洋秩序の重要性」と書いた。第2に、第12項で「公海及び排他的経済水域の航行及び上空飛行の自由並びにその他の国際的に適法な海洋の利用を含め~中略~国際法を尊重することの重要性を改めて表明」とうたった。

第1の「海洋秩序」は、「海洋安全保障」を意味しない。では何を意味するのだろう。それを解くには、「海洋秩序」の前に「持続可能な」という形容詞が付いていることに着目したい。FOIPが「法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋」と強調するとき、名指しはしていないが、海洋進出を強める中国を意識した表現であるのは明白だ。

しかし、第10項は続けて「(島しょ国側は)海洋及び海洋資源の持続可能な管理、利用及び保全に対するコミットメントを改めて表明」とし、具体的には「(プラスチック並びに核廃棄物、放射性物質、その他汚染物質などの)海洋汚染や海洋ごみ、海上安全保障及び海上安全、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の撲滅」と書くのである。

素直に読めば、太平洋島しょ国が直面する現在の脅威は、「中国の脅威」ではなく、海洋汚染と環境問題にあることがわかる。日豪からすれば「法の支配」「自由で開かれた」という言葉を盛り込んだことで、「対中牽制」に成功した、と言いたいところだろう。

しかしこの文章からうかがえるのは、立場の異なる双方の主張を満たす「玉虫色」表現ということだ。この文章を、2021年3月12日にやはりオンラインで開かれた「クワッド首脳会合」の共同声明と比べてみる。クワッド首脳会合は、同盟構築に消極的なインドに配慮し、中国への名指し批判を一切控えた。(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100159229.pdf

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