「反中国」に太平洋諸国を引き込めなかった日本 太平洋島しょ国の最大の関心事は環境問題で中国ではない

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だが中国の海洋進出に関する部分では、「東シナ海及び南シナ海におけるルールに基づく海洋秩序に対する挑戦に対応するべく、海洋安全保障を含む協力を促進する」と、「海洋安保」の協力を盛り込むのである。

そうしてみると、太平洋島しょ国にとっては、中国の海洋進出に対する懸念や警戒は決して強くはなく、FOIPに島しょ国を引き込もうとする日本とオーストラリアの狙いは「空回り」したと言えるだろう。

第2の「公海及び排他的経済水域の航行及び上空飛行の自由」も、日豪側が強く主張した内容である。だが文言に「中国」が入っていないだけに、誰も反対できない一般論に近いものがあり、この文章なら中国も反対しないと思う。

懸念は原発処理水の海洋放出

太平洋島しょ国は、気候変動に伴う海水面の上昇によってツバルなどが水没の危険に直面していることは知られている。首脳宣言が「重点協力分野」として、気候変動への取り組みを独立して取り上げたのもその懸念を裏付ける。

注目すべきは第11項で、東電福島第一原発から太平洋へのALPS処理水の海洋放出について「国際的な協議、国際法及び独立し検証可能な科学的評価を確保するという優先事項を強調」と、日本政府の海洋投棄に強い懸念を表明したことである。

海洋放出については、中国、韓国が非難・反対キャンペーンに傾注してきた。さらにオーストラリア、ニュージーランドを含む「太平洋諸島フォーラム(PIF)」も、独立した専門家が再検討するまで「放出延期」を求める声明を発表している。しかし首脳会合を報じた日本の全国紙のうち、最も扱いの大きかった日本経済新聞の記事には、海洋放出に対する島しょ国側の要求には一切触れていない。その反面、「太平洋せめぎ合う日米vs中国、首相300万回ワクチン供与 島サミット、台湾念頭に支援強化」という3本タイトルに「台湾念頭に支援強化」とうたったのが目を引く。

記事は、菅首相がサミットで対中結束を促したのは「台湾と外交関係がある国に断交を迫る中国が念頭にある」とまで踏み込んだ。「嫌中」の裏返しとしての台湾傾斜が全国メディアでも目立つが、日本政府とメディアはいつから、外交承認問題で「台湾を支援する」立場に転換したのだろうか。

こうして首脳宣言を点検すると、先に紹介した「台湾やパラオを含む太平洋島嶼諸国を『西方世界』共通の拠点にしていく」構想は、現実離れの「空論」にすぎないことがわかる。中国敵視のFOIPをアメリカとともに推進する日本外交は、重点地域とするASEANと太平洋島しょ地域では成功していない。多くの国は、バイデンの「民主主義vs専制主義」という二元論的イデオロギー外交に困惑しているからである。

比較的うまくいっているとみられるのは西欧諸国だ。しかしインド・太平洋への艦船派遣は、艦船と兵員の練度向上という各国の軍事的要因と、バイデン政権への「お付き合い」の意味もあろう。フランスのマクロン大統領は「中国を敵視しない」と公言し、ドイツは中国との経済的結びつきが強い。南シナ海や台湾で有事が起きたからと言って、欧州諸国が本気で艦船を派遣すると信じる者はほとんどいない。

岡田 充 ジャーナリスト

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おかだ たかし / Takashi Okada

1972年共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て、2008年から22年まで共同通信客員論説委員。著書に「中国と台湾対立と共存の両岸関係」「米中新冷戦の落とし穴」など。「岡田充の海峡両岸論」を連載中。

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