署名・押印だけでも膨大「天皇の仕事」激務な中身 憲法に規定されている「国事行為」だけじゃない

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これについて「内閣が助言と承認をしながら、天皇がその行為を行われない、つまり拒否されるということは憲法に認めていない」(1964年4月の参院内閣委員会での当時の内閣法制局次長)との解釈です。

この国事行為は宮殿「菊の間」の執筆室でのデスクワークが中心となります。最高裁長官の任命、国務大臣その他の官吏の任免の認証、法律や条約の公布、大使の信任状の認証など、毎週、火曜日と金曜日の閣議で決定された書類は、毎回、天皇のお手元に届けられます。

天皇はそれらを丁寧にご覧になってご署名やご押印をされます。今上天皇の場合、その数は即位された2019年5月から年末の8カ月間で約700件、翌2020年の1年間は995件になりました。

一方、憲法にも法律にも規定されていない「公的行為」と「その他の行為」ですが、「公的行為」は「象徴としての地位に基づく行為」と解釈され、「象徴としての地位からにじみ出る行為」とも表現されています。「その他の行為」は私的行為ともされています。

新年祝賀、全国戦没者追悼式などは「公的行為」

まず、公的行為です。皇居で行われる公的行為には「新年祝賀」「新年一般参賀」「天皇誕生日祝賀」などや、文化勲章や文化功労者、日本芸術院会員への「謁見」や「昼食会」、任地に赴任する大使夫妻などをお招きになって催す「お茶会」などがあります。「ご会釈(えしゃく)」というお務めは、皇居内の清掃奉仕のため全国各地から集まる人々とお会いになることです。

皇居以外では、全国戦没者追悼式や日本学士院授賞式、日本芸術院授賞式などへのお出まし、毎年春と秋の2回、赤坂御苑で催される園遊会。さらに全国植樹祭、国民体育大会、全国豊かな海づくり大会などにご出席のため地方に行かれる行幸啓があります。行幸啓とは天皇・皇后がご一緒に外出されること、天皇だけのときは行幸、皇后だけのときは行啓といいます。

また被災地のご訪問や、地方の福祉・文化・産業施設などもお訪ねになって、関係者を慰められ、また励まされるのも公的行為に含まれます。外国ご訪問もそうです。こうして見てもわかるように、公的行為はさまざまな分野におよびます。

平成になって明仁天皇の公的行為は拡大しました。例えば昭和天皇と明仁天皇がそれぞれ82歳だったときを比べると、行幸啓では昭和天皇は42件、明仁天皇は128件です。お茶会では昭和天皇4件、明仁天皇57件です。明仁天皇がいかに活動的、能動的だったかわかります。

その他の行為は私的な行為ともされていますが、これは2つに分けられています。「私的なものでも公的性格や公的色彩を有するもの」と「純粋に私的なもの」です。

例えば同じ音楽会へのお出ましでも、文化芸術を奨励する意味合いがあったり、チャリティーといった公的な趣旨があったりするものの場合は前者になります。純粋に個人的なご関心でのご出席は後者になります。大相撲の観戦や展覧会のご鑑賞は後者に入ります。

「純粋に私的なもの」の中心は宮中祭祀(祭儀)です。宮中祭祀は皇居内の宮中三殿を使って行われます。

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