国家プロジェクトは500億円を境に国際化

ビッグサイエンスの成長戦略とは?

世界最高エネルギーを達成する、というエネルギーフロンティアを求める物理学は、高エネルギー物理学者にとって王道ともいえるものですが、巨大加速器が必要になります。そこで日本は戦略を見直し、その後は、世界最高の「ルミノシティ(ビームの中にどれだけ粒子が存在するか、正面衝突させるビームが、衝突点でどの程度細くなっているかを示す値)」を誇る加速器を目指すようになります。そして見事に、周長3kmほどのKEKB加速器で、2001年には世界最高のルミノシティを誇る加速器を実現しました。このKEKB加速器は、2008年のノーベル物理学賞の対象になった、小林・益川理論を検証したことでも有名です。

世界でも、より高いエネルギーを、あるいはより高い粒子密度を求める加速器が開発し続けられ、それによってより周長の大きいな、あるいは強い磁石を必要とする加速器が成長していきました。また、次に提案されている国際リニアコライダー計画は、全長が30kmを超える長い加速器です。

500億円が国際プロジェクトへの分岐点

ビッグサイエンスが成長をし続けるには、成長戦略が必要になります。その戦略は、研究者の意向で計画されるボトムアップの基礎科学においてみられる傾向でした。

それはつまり、ある規模になるまではその国独自のプロジェクトとして進め、それ以上の規模になると国ごとに分担金を決めて運営をする国際プロジェクトにする、というものです。自然科学におけるビッグサイエンスには「国家」プロジェクトから「国際」プロジェクトになる分岐点があるように見えます。ラインはおおよそ500億円。これを越えるものについては、分野によっては日本独自に進めますが、自然科学の分野では国際分担を決めて進める方式が採られ、各分野が成長を続けています。

こうした方式がとれるのは研究者の意向で進めるボトムアップ型の分野に多いですが一部のトップダウンプロジェクトにも見られます。たとえば、安全保障にも関わってくるロケット開発において、各国と共同開発という案は聞きません。

加速器の次に大型化が進む望遠鏡では、ハワイに設置したすばる望遠鏡までは「国家」プロジェクト、そのあとのアルマ望遠鏡や研究が承認されて間もない30m望遠鏡(TMT)などは「国際」プロジェクトとして進んでいます。TMTに関してはカナダ、アメリカ、中国、インドなどが参加していますが分担額が決まっており、各国の予算を組み合わせて建設を進めます。こうした建設費を分担する国際プロジェクトは従来型の大型装置を必要とするビッグサイエンスで進んでいます。トップダウンのプロジェクトでは、日本とアメリカがそれぞれに海底を掘削する船を持ち、お互いが協力して地球環境変動や地球内部構造を調べるIODP(統合国際深海掘削計画)などもあります。

近年は予算の問題を、国際プロジェクトにすることで分担するほかに、大富豪に出資していただくケースも出ています。しかし出資者の経営いかんによって当初の予定通りに行かない場合もあるようです。ビッグプロジェクトの予算獲得が、国家独自から国際分担へ、さらには大富豪からの出資や寄付金へと移行していることは確かで興味深い動きです。冷戦時代、政府が研究費を潤沢に大学や研究所に出したことから、大富豪や財団は一時期、研究への投資をゆるめ、むしろ大学院生の育成を助成したと聞きます。各国が実利主義になった今また、大富豪や財団は基礎科学のスポンサーとして存在感を表しています。

次ページ著者名は寄与順か、ABC順か
ビジネスの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 経済学で読み解く現代社会のリアル
  • 就職四季報プラスワン
  • 日本野球の今そこにある危機
  • 越湖信一のスーパーカー列伝
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
コロナ時代の勝者と敗者<br>不動産 熱狂の裏側

実体経済の悪化を尻目に、国内外から熱い視線が注がれる日本の不動産。業界の雰囲気とは対照的に、上場不動産会社の株価は軒並み軟調です。コロナ後の新常態で誰が笑い、誰が泣くのでしょうか。現場の最新情報を基に不動産市場の先行きを展望します。

東洋経済education×ICT