定年延長は「働かないオジサン」を量産した 惰性で雇われ続けるオジサンという大問題

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「嫁さんが退職することを許してくれない」

N君の会社では誕生日で定年退職を迎えるが、60歳を迎える年度の3月末日をもって退職としている会社も少なくない。そういった会社では、労働条件や仕事内容の提示はまだ少し先だ。

先日、筆者も含め、年度末に定年を迎える5人が居酒屋で話し合った。Aさんは、60歳の年度末で退職して区切りをつけたいと思っているが、妻が許してくれないという。話を聞いていくと、彼が退職して毎日家にいることに耐えられないと主張しているらしい。そのためAさんは、やむなく65歳までのコースを選択するつもりだという。

また、「退職しても、行くところは地元の図書館くらいしかない。会社に勤めているほうがまだ健康にもいい」と言っている人もいた。

経済的には働かなくていい立場なのに、彼らのように消極的な選択として働き続けることを決める人も少なくない。会社にとっては、働きたくないのに妻に言われて出社する社員や、家にいるより健康にいいからという理由で居残る社員を雇い続けなければならないことになる。「働かないオジサン」になる可能性が高いにもかかわらず、雇用を続けなければならないのだから、非常に頭の痛い問題だろう。

「元気で過ごせるのはあと10年?」

先ほどの居酒屋の会話で、皆が一瞬静まり返った瞬間があった。

妻の希望を受け入れて、60歳以降も働くつもりだと話していたAさんが、「自分の親を見ていると、80歳まで寿命があっても、外に出て元気にやれるのは70歳までだ。そう考えると残りはあと10年だ」と語ったのだ。

その発言を聞いたときに、5人の頭に浮かんだのは「エッ、あと10年? 残りの人生はそんなに短いのか」という共通した思いだった。「妻が許さないから」「まだ健康にいいから」といった理由で惰性的に働き続ける選択が、残りの人生の短さに見合ったものではないことを各自が感じ取ったのである。

とはいえ、人はいきなりは変われない。残り10年を充実させるためには、もっと早いうちから自分の人生をどうするか考えて、助走しておくことが必要だったのだろう。

こうしてみてくると、企業側も社員側も、なかなか大変な課題を抱えている状況が見えてくる。しかし企業の中には、今回の法改正をよい機会ととらえ、定年延長によって社員の戦力アップを図っていこうともくろんでいる会社もある。また、先日の記事「働かないオジサンにならない4つの働き方」(上:社内でやる気を失わないのは「運がいい人」だけ、下:「出世の見込みがない人」ほどイキイキと働ける)にあるように、自分の努力によって、充実した人生を手に入れようとしているサラリーマンもいる。

今後は、この企業側の課題と社員側の課題の両面をにらみながら、具体例も交えて、連載を続けていきたい。

楠木 新 人事コンサルタント

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くすのき あらた / Arata Kusunoki

1954年神戸市生まれ。1979年京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。人事・労務関係を中心に経営企画、支社長等を経験。47歳のときにうつ状態になり休職と復職を繰り返したことを契機に、50歳から勤務と並行して「働く意味」をテーマに取材・執筆・講演に取り組む。2015年に定年退職した後も精力的に活動を続けている。2018年から4年間、神戸松蔭女子学院大学教授を務めた。現在、楠木ライフ&キャリア研究所代表。著書に、『人事部は見ている。』(日経プレミアシリーズ)、『定年後の居場所』(朝日新書)、『定年後』『定年準備』『転身力』(共に中公新書)など多数。

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