定年によって、企業は社員を断ち切ってきた
企業は、この一律に昇ってくるすべての中高年社員に対して、イキイキ働ける場を提供することは困難なので、60歳の定年で雇用を断ち切ってきた。年齢で一律に会社から退出させてきたのである。
さらに高度成長の終焉とともに、コスト面からも社員のモチベーションの維持の観点からも、60歳定年まで待てなくなった会社も出てきた。そういった会社では、退職勧奨や早期退職制度の実施、役職定年制の導入、転籍出向などで、中高年社員を定年より早く社外に排出しようとしてきた。マスコミで取り上げられる「追い出し部屋」も、社員を社内に留め置かないための施策と言えるかもしれない。
2013年の高年齢者雇用安定法の一部改正は、その退職時期をいきなり60歳から65歳に延長した。今までのマネジメントと真っ向から矛盾・逆行する取り扱いなのだ。
確かに戦後を見れば、定年年齢も55歳から上昇して、1998年以降に60歳定年制が義務化された。しかし、このときはまだ、成長の余韻が残っている時期であった。大量採用したバブル世代がもう数年で50代となり、その処遇が大きな経営課題に浮上している現在と、単純に比較することはできない。そういう意味では、働かないオジサン対策は、日本企業の最重要課題だといえそうだ。
定年後の勤務条件に愕然とする
この問題を、社員側はどう受け止めればいいのだろうか。
先日、知人のN君から、久しぶりに電話があった。会って相談したいことがあるという。スーパーの紳士用品売り場で働いているN君は、60歳。ほぼ40年間、同じ会社で働いてきた。60歳以降も働く制度に手を挙げていたが、数カ月前に会社から提示された条件を見て驚いた。週に3日勤務で、その労働時間は週にたったの20時間だというのだ。
特にN君が衝撃を受けたのは、社会保険の付保がないことだった。給与が下がることは覚悟していたが、社会保険が付与されない嘱託扱いになることまでは想像していなかった。
厚生労働省のHPにあるQ&Aを読むと、嘱託やパートなどに雇用形態を変更することも可能とある。N君には同情を禁じ得なかったが、同時に例外なく65歳までの勤務場所を提供しないといけない会社の立場も考慮して、こういった運用になっているのであろう。
両親とも同居しているN君は、経済的にやっていけないと思い、即座に上司に対して60歳以降は働かないと意思表示をしたという。現在は次の仕事を探している。
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