出張客には、やたらと出張慣れしている人と、たまの出張の人がいる。慣れている人は、従来でも提供されるまで待つ無料飲料に期待せずに、ペットボトルを持ち込んでマイペースに飲む人も少なくなかった。なぜなら、機内で過ごすのはごく当たり前の日常、「ケの日」であるからだ。たまの出張の人にとっては、家族客と同じく機内体験は「ハレの日」だ。同じ理由で高級有償サービスがうれしい。
エコノミー席でプレミアムクラスの食事を楽しむ。周りからの視線がちょっと気になるところだが、1800円なら駅弁と大してかわりない。500円のビールとともに食せば、ちょっとリッチな気分を味わえる。またはスターバックスのコーヒーを飲みながら、特製のデザートを楽しむ。本来なら「疲れる」ことも多い移動の時間が、「癒し」の空間に大変身だろう。
担当者は「コンビニと差別化するために価値ある商品を選んだ」(同記事)と語っている。自分で持ち込む以上の「価値」をしっかりと提供していることが大きなポイントであり、顧客満足につながっているのである。
「機内」という特殊な空間とシチュエーションにおいてではあるが、従来の常識をもう一度見直し、顧客の立場で「価値」を自らに問い直して、「有償高級化」という昨今の世の流れに逆行して成功した展開。ANAに搭乗する機会があれば、一度試してみてはどうか。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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