両国の株価が逆行したことに対しては、2つの理由が考えられる。1つ目は、新型コロナワクチン接種のスピードの違いに起因する両国の経済回復タイミングの差によるものだ。この時間差を「ワクチンラグ」と名付けよう。
IMF(国際通貨基金)は7月27日に発表した2021年の経済見通しで、アメリカのGDP(国内総生産)の実質成長率を前回見通しから0.6%上方修正して7.0%、日本の成長率を0.5%下方修正して2.8%とした。世界の経済見通し全般については、「今回の見通しでは、4割がワクチン接種を終え、経済対策も続ける先進国と、そうした環境が整わない新興・途上国との格差がさらに広がった」(『朝日新聞』7月27日)と報じられている。日本は「新興・途上国」に近い。
ワクチン接種で先行して経済再開が進むアメリカと、ワクチンで半年以上遅れて、現在、感染が再拡大して緊急事態宣言の範囲が首都圏3都県と大阪府にもひろがろうとする日本の、国内経済の差は株価にとって大きい。ちなみに、株価には前回予想からの「上方修正」、「下方修正」の変化が効く。これは、個別企業の株価に、利益予想の修正が効くのと同様の現象だ。
日銀の「ETFの買い入れ姿勢変化」の影響は?
もう1つは、効果の検証が難しいのだが、日本銀行がETF(上場型投資信託)の買い入れに対して消極的になったことだ。株価は十分高い(「リスクプレミアムが高くない」とはそういう意味だ)と思うようになったのか、「株価が前場で前日比マイナスなら、後場には日銀が買い出動してくれる」といった期待と安心感が市場で働きにくくなった。
ただし、もともと「日銀のETF買い」の株価に対する効果には2説あった。第1の説は「株価が下がれば日銀が買い支えてくれるだろう」という予想を通じて、株価の下支え要因だったというものだ。
第2の説は、日銀のETF買いの株価に対する影響はそう大きくない。外国人投資家のまとまった売りなどで株価が一時的に下がったときに、日銀がETFを買うのは、個人投資家が日本株を安く買うチャンスを奪っているだけで、株価水準に大した影響はない、というものだった。どちらが正しいのかは判然としない。
真実はおそらく、2説の中間のどこかにあるのだろう。他方、本論から外れるが、日銀が大量のETF買いを通じて日本企業の大株主になったものの、そのETFの処置を持て余しているように見える。「日銀は、将来、自分が買ったETFをどうするつもりなのだろうか?」との心配は、日銀のETF買いの株価に対する影響について、「あり」「なし」何れの立場に立つ人にとっても、大きな疑問であると同時に将来の懸念材料だ。
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