大坂は、うつ状態と戦ってきたのは2018年以来のことで、時に公の場で対立することもあるような記者会見は苦手であると説明した。アメリカではほぼどの家庭にもさまざまな精神疾患を持つ家族がいるという事実を受け入れ、精神疾患はある程度普通のことになっているのに対し、日本ではいまだに精神疾患は大きな偏見の目で見られていて、見過ごされているケースも少なくない。こうした背景から、大坂のうつ症状は「仮病」だと見る向きがあるのもあまり驚くべきことではない。
開会式の演出はやりすぎだったのか
大坂が先の全仏オープンなど2大会を欠場し、プレーを再開するかまだ不明だった3月に聖火点灯を依頼されたことに驚く人は少なくなかった。
私自身も驚いた。日本に住んで17年にもなると、オリンピック聖火台に黒人女性が点火し、黒人男性が旗手を務めるというイメージが示唆するよりずっと日本が「多様化」していないことを承知している。実際、日本が多様化の認識向上に力を入れていることを示す方法がーー例えば日本の少数民族にスポットを当てるなどーーほかにもあったかもしれない、とも思っている。
しかし、日本のオリンピック委員会(JOC)は、肌の色で人種差別をしない国であることを世界にアピールしようと試みた。そして調子外れの、それこそ「空気を読めない」演出をすることで、今の日本はその状況にないことを無残にも露呈してしまった。
日本に住み、日本を知り愛する人ならだれでもわかったことだが、開会式で示された日本は、議論の余地はあるが、現在の日本が憧れるような日本の姿ですらなかった。あまりにもやりすぎだったし、あまりにも時期尚早だった。
それを踏まえると、反発が起こるのは驚くことではなく、大坂が多くの人の期待通りのことを行わず、彼女がすべての人の期待を裏切って日本に金メダルをもたらさないことで、彼女はこの敵意の格好の標的になってしまった。
日本では他民族の血を引く有名人は、以前からネット荒らしの攻撃の標的になってきた。もちろん大坂もその標的に何度もなっている。特に全米オープンを政治問題化し、公に世界的な反人種差別運動への支持を始め、アメリカの警察権力による黒人の殺害に抗議した時だ。この瞬間、彼女への攻撃が解禁状態になったのだ。
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