韓国の女性たちが熱烈に支持した「主人公」の正体 社会現象となった「2016年のソニョン」
これが男性の最終決定権者だったら可能だったろうか? いくら私のコピーがすぐれていても、D企画が試案をうまく仕上げてコンペをやり抜いていても、クライアントとの長いつきあいから言って、男性社長ならこの広告案はあっさり蹴っただろうと思う。奇跡につながる神の一手は、最終決定権者が女性だったことだ。江南駅殺人事件を機に可視化された女性嫌悪や、女性の実質的な安全や生存が脅かされているという現実を認識し、共感できたのは女性社長だからこそだった。
私は花じゃない、火花だ
決定権者の性別が広告に与える影響について、もう1つ例を挙げよう。2016年の夏、Hグループの広告を制作するスタート段階に関わっていた。テーマは、前の年から始まっていた企業イメージのPRキャンペーンをどう継続するか。
広告代理店で開かれたアイデア会議に、私はこんな案を持って行った。会議室で誰よりも積極的に質問し、鋭い反論をする女性の映像をハイスピードで見せる。その上にこんなコピーがつく。
「枯れない。しおれない。簡単には折られない。私は花じゃない、火花だ」
このアイデアは当時採択されなかった。スポンサーまで報告も上がらなかったはずだ。なぜか? 依頼してきた広告代理店の制作チームに、女性社員は皆無だった。長くこの仕事をしていると、眉の動きひとつで先方の好き嫌いがわかる。「私は花じゃない、火花だ」というメッセージは男性陣の気持ちを揺さぶることができなかった。
自分としては会心の作だったので、お蔵入りさせるのが悔しくてSNSにアップしたところ、女性たちから爆発的な支持を得た。「私は花じゃない、火花だ」はそのあと自然発生的にさまざまな女性のデモの合言葉として登場し、2018年の初めには淑明女子大学女性学サークルのフェミニズム地下鉄広告にも使われた。勇気党のスローガン「私たちは互いの勇気になる」とともに、韓国のフェミニズム大衆化のページに刻まれる言葉となったのだ。
広告代理店、スポンサーが買いたがらなかったコピーが共感する女性によって救われ、息を吹き返していくプロセスを眺めるのはまったく新しい経験だった。なんと、有名ドラマ作家が超大作ドラマのセリフに採用したほどなのだ。
最近、化粧品の広告が少しずつ変化してきているのがわかる。そばかすがあったりプラスサイズのモデルを起用したりと、自分のルックスを肯定しようという「ボディポジティブ」なメッセージも増えた。主な顧客が女性の商品から、変化はゆっくりと始まっている。だが、より肉付きのいい女性、シワのある女性、賢い女性、筋肉質な女性、権力を持つ女性……いまだに広告でお目にかかれない女性は多い。私たちには、より多様な女性の姿を、メディアを通じて次世代に見せる責任がある。
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