世界を震撼させるEU「脱炭素」ゴリゴリの本気度 包括案には国境炭素税など具体案が目白押し
ヨーロッパの政策当局は、他国の公約よりも圧倒的に早く化石燃料依存から脱却するべく大がかりな立法作業を進めている。ヨーロッパ連合(EU)の温暖化ガス排出量は中国とアメリカに次ぐレベルだが、この法案には環境規制の緩い国からの輸入品に関税を課す国境炭素税などが含まれ、貿易をめぐる世界的な論争に発展する可能性がある。
EUの行政執行機関、ヨーロッパ委員会は温暖化ガスの排出量を速やかに削減し、すでに法律となっている気候変動対策の野心的な目標を達成するため7月14日、約10本の法案から成る包括案を公表した。27の加盟国は2030年までに温暖化ガスを1990年比で55%削減する方針だ。
「口だけ」の他国とは大違い
EUの法案は、2050年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにするという他国の漠然としたかけ声とは好対照を成す。「これは(具体策の伴わない)単なる大きな約束とは違う」とベルリンを本拠とする気候政策シンクタンクE3Gのアナリスト、ジェニファー・トールマン氏は語る。
「フィット・フォー・55」と呼ばれるこの包括案はまだ案にすぎず、法制化には27の加盟国とヨーロッパ議会との間で今後何カ月という調整が必要になる。その過程では、北海での石油・ガス採掘、ドイツやポーランドでの石炭採掘といった域内の化石燃料依存にも厳しい目が向けられることになるだろう。
法案の中でも最も物議を醸すとみられるのが国境炭素税だ。域外からの輸入品に関連した温暖化ガスに関税を課すもので、環境規制の緩い国でつくられた製品からヨーロッパ企業を実質的に保護する役割を果たす。鉄鋼、セメント、肥料などが対象になる。
国境炭素税は世界貿易を揺るがし、世界貿易機関(WTO)で保護主義をめぐる論争を巻き起こす可能性があるだけではない。11月にイギリスのグラスゴーで予定される第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が近づく中、外交に新たな亀裂を生じさせる危険性も宿している。
COP26は、地球が危険な温暖化の道をたどる中、温暖化ガスの主な排出国がこの問題にどう対処するのかを示す重要な場だ。科学者によれば、世界は全体として2030年までに温暖化ガスを半減させる必要があるが、そのためには歴史的に温暖化ガスを最も多く排出してきたアメリカとヨーロッパが最も急速に排出量を減らさなくてはならない。