アルツハイマー「根本治療薬」専門医はどう見るか 「アデュカヌマブ」日本導入の可能性と課題は?

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――MCIは病気ではないとしたら、それを保険で認めるということは矛盾になりませんか。

「きちんと段階的にやっていくんだろうと思います。例えば、若年性アルツハイマー病には使えるようにしてほしい。血管や神経細胞の老化現象を伴っておらず、純粋にアミロイド病変が主体なので、有効性も期待できます。一方で、高齢者の場合は生活習慣病や脳血管障害など複合的な要因も伴う認知機能低下が多いので、そういった場合は『アミロイドβ陽性』の確定が出た人に限定して使うとか。そうしないと経済的な破綻を招くことになると思います。

あとはMCIを専門医がきちんと診断すること。やみくもに使われたんでは、日本でも要求されるであろう承認後臨床試験で有効性が確認できないということになりかねない。このように、日本ならではの細かい条件設定が必要だと思います」

アデュカヌマブは、アミロイドβタンパクに対する『抗体』を打っているようなもので、高度な技術を要するため値段が高いという。コロナワクチンのように抗原を打って体の中で抗体を作らせることを「能動免疫」というが、この場合は費用を安く抑えられる。ところが免疫反応をかなり動かすことになるので、副作用が出やすいというデメリットがあるのだ。天然痘の予防注射があれば一生天然痘にかからないのと同じように、最初から抗原を打つことで、能動免疫を行うことができるようになるのがいちばんの理想だという。

――今後、第2弾、第3弾の根本治療薬が承認されていく可能性はあるのでしょうか。

「もちろんです。ただしアミロイドβタンパクを取り除くという行為が、認知症治療に必ずしも正しいかどうか、まだ確定はしていないわけです。そのためアミロイドβに関与しない治療薬もどんどん開発されていて、臨床試験も行われています。

そう考えると、実はコロナのような感染症のほうがメカニズムは簡単で、外から入ってくるものは原因がわかっているからシンプルなんですね。内なる敵というのが治療がいちばん難しい。もともと体内に存在し何らかの役割を有しているのに、何で敵に?ということです。でも、今回の承認を受けて、今後の研究や臨床試験に弾みがつき、さらに大きな展開が期待されます」

今回のFDAによる承認は、まだ風穴が空いたばかりだとのことだが、超高齢化社会を迎えるにあたり、認知症対策は避けては通れない問題だ。日本で承認された場合、使用にあたっては費用負担がなるべく軽くなるよう、今後の議論が待たれるところだ。

草薙 厚子 ジャーナリスト・ノンフィクション作家

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くさなぎ あつこ / Atsuko Kusanagi

元法務省東京少年鑑別所法務教官。日本発達障害支援システム学会員。地方局アナウンサーを経て、通信社ブルームバーグL.P.に入社。テレビ部門でアンカー、ファイナンシャル・ニュース・デスクを務める。その後、フリーランスとして独立。現在は、社会問題、事件、ライフスタイル、介護問題、医療等の幅広いジャンルの記事を執筆。そのほか、講演活動やテレビ番組のコメンテーターとしても幅広く活躍中。著書に『少年A 矯正2500日全記録』『子どもが壊れる家』(ともに文藝春秋)、『本当は怖い不妊治療』(SB新書)などがある。

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