交易条件の悪化が日本経済をさらに圧迫している 仕入れ価格を転嫁できず企業のコスト増が続く

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輸出物価と輸入物価の変化による所得の流出入額を示す「交易利得(損失)」は、2021年1~3月期に前期比マイナス8700億円となり、4~6月期(現時点の筆者の推計)はマイナス1410億円となった。2021年に入って計1兆円もの利得が海外へ流出したわけだが、基本的には企業あるいは家計がこの流出分を負担することになる。

例えば、輸入物価の上昇はコスト増加として、まずは輸入企業が負担する。仮に販売価格に転嫁できない場合はそのまま輸入企業のコストとなり、収益を減少させる。

販売価格に転嫁できた場合でも、転嫁された価格は取引先企業あるいは家計への追加的なコストとなり、取引先企業の収益悪化あるいは家計のコスト増をもたらす。さらに、企業が労働分配率を上げなければ家計の負担が大きくなる。すなわち、交易損失は、企業あるいは家計のいずれかの主体のコスト増になる。

「K字型」の業種間格差をより拡大

2020年はグローバルなコロナ禍によって原油など商品価格が大幅に下落し、日本経済にとっては恩恵が大きかった。景気悪化によって需給バランスが悪化し、価格が調整されるという教科書的なメカニズムが、グローバル経済全体で働いていた。しかし、足元では感染症を早期に制圧した中国と、ワクチン接種が先行した欧米経済への回復期待を反映し、商品価格が高騰している。

経済が回復している国・地域では、商品高(コスト高)にも耐えられるだろう。一方で、コロナ禍による経済活動の抑制が続く日本では対面型サービス業を中心に苦境が続いており、企業は疲弊している。国内経済だけを見れば需給バランスは低迷したままであり、インフレ率が高くなる状況にはないが、一次産品の純輸入国の日本は国際市場で決まる商品価格を受け入れざるをえない。

海外経済が先行して回復することは、製造業など輸出企業にとっては恩恵が大きいが、内需企業にとってはコストの増加のみが重くのしかかる。足元の交易条件の悪化は「K字型」と称される業種間格差を一段と拡大させ、日本経済にとって「ダメ押し」となっている。

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