『生きる哲学 トヨタ生産方式』を書いた岩月伸郎氏(デンソー顧問)に聞く
ものづくりの手本とされるトヨタ生産方式の3本柱は「品質最優先」「ムダの徹底的排除」、それに「人間尊重」。数ある「トヨタ本」の中で、その生みの親・大野耐一氏(故人、副社長)の直弟子による「体験的エッセンス集」が刊行された。
--本文冒頭の、著者が「カイゼン要員」に途用されるきっかけになった逸話には驚きました。
脚色も何もなく、事実そのまま。入社2年目の工場で、業務改善について生産管理部の重鎮による講義があった。当時、職場の上司や先輩から教えられていたことと正反対の内容であり、「おかしいと思う」と質問を切り出した。そうしたら、いきなり壇上からすさまじい怒鳴り声の一喝。今でも鮮明に覚えている。
--しかし、居残りを命じられました。
当時、生産管理部が優先順位を高く置いていたのは、半年ぐらいで片をつける業務改善のプロジェクトを、1人で進められる人間を見いだすこと。だから、悪い言葉でいえば、一発かませて様子をみたようだ。
「明日から、ここにいる張(富士夫現会長、当時係長)の後ろをついて歩け」。この若いのも教えれば先々ものになるかもしれない、というような軽い感じだったのだろう。
--その後、大野さんの近くに席を置きました。
私が接したときにはもう専務になっていて、年齢は50代の後半。大部屋で執務を行い、通路を挟んで背中を向けた位置に私の席はあった。生産計画を担当しているときに、打ち合わせ用の丸テーブルに呼ばれ、「直行率(最終検査ですべて合格した良品数の割合)100%ということが新車の立ち上がり時期には必須」と直々に教えられた。また、仕入れ先の社長を突然ばかもんと烈火のごとくしかり、自身の顔が一気に紅潮して白目のところに血管がバーッと走る、そんな現場も体験した。