『生きる哲学 トヨタ生産方式』を書いた岩月伸郎氏(デンソー顧問)に聞く
--「後工程が前工程に、いるものを、いるときに、いるだけ引き取りにいく」という「逆転の発想」はどこから生まれたのですか。
「ジャストインタイム」そのものは、創業者の豊田喜一郎さんが流れ作業を全工程に実現するとして発想した。実現するために具体的にどうやったらいいのか、大野さんが考えているときに、アメリカにスーパーマーケットというものがあると。
扱い品目がたくさんあって、それぞれの品目を少しずつしか棚に置いてないらしい。あるものが売れると、売れた分だけ、棚に補充する。たくさん売れるものは棚を広げ、あまり売れないものは棚を減らす。ほとんど売れなくなると棚から外す。そんなことをやっているらしいと。それを聞いたときにピンときたようだ。
--内製か外注か、さらに設備投資で、その判断は独特だったとか。
たとえば、設備投資。身近にいて、当時の私には違和感があった。出来上がった設備を見て、ぼろくそにけなす。そう言うのなら、計画を決裁するときに図面を見て、あるいは個別図面を見なくても、半分ぐらいの値段でやれとでも指示したらいいのに、と思う場面にしばしば遭遇した。
ただし、のちに私自身が大集団を統括する立場になってみて、そう単純でないとわかった。人の動き、ものや情報の流れを現場でとことん直す。ぎりぎりまで人の作業のムダを省く。同時に同じような形で設備のありようについてもがんがん言ったら、どうなるか。ある種ちんまりまとまってしまわないか。
ここは決して譲れないという部分以外はむしろ緩やかにしておく。結果として、自分の知識やスケールを超えたものができていくこともある。大野さんはそういうことをやっていた。そう後になって思った。