日経平均が上がりにくいのは東京五輪のせい? 「バーベル戦略」はとりにくいが「中身」は良化中
では、何が日本株の上値を抑え込んでいるのだろうか。多くの専門家が、新型コロナウイルス感染症の流行が再拡大すること、とくに変異株の流行が懸念されていることを、その要因として挙げている。
緊急事態宣言の再発令や「まん防」延長の可能性も取りざたされているし、東京オリンピックで海外から選手団や取材陣の訪日者数が増え、それが流行を再燃させるとの不安もあるだろう。
こうなると、アメリカで進んでいる「リフレトレード」、すなわちコロナ禍で打撃を受けた小売り、外食、旅行関連などの非製造業を買い上げるというやり方を、「日本ではやりにくい」とためらう投資家が多くなっても不思議ではない。
それだけではない。筆者がアメリカの投資家と議論していると、政局への跳ね返りを警戒しているとの声をよく聞く。菅義偉首相が解散しようとすまいと、衆議院議員の任期末は今年10月21日で、年内には必ず総選挙となる。コロナ禍の再燃が政府の不手際によるものだとの批判を招くことにより、総選挙で政権交代はないとしても、与党がかなり議席を減らすという展開を、海外投資家が心配し始めたようだ。
製造業主導の株価の持ち直しに期待
しかし、当コラムで述べてきたように「今年内の日本株の緩やかな持ち直し」という見通しに変更はない。確かに非製造業を買い上げづらい地合いとはなっているものの、製造業の業況感は大きく改善している。1日に公表された日銀短観では、大企業非製造業の「最近」の業況判断DIは3月調査のマイナス1から6月調査ではプラス1へと、2ポイント幅の改善にとどまった。だが、大企業製造業は同じくプラス5からプラス14へ、9ポイント幅も増加した。
その主要因は、日本の製造業が得意とする、企業向けの設備機械、建設機械や、それを支える機械部品、電子部品の輸出増だと推察される。日本からの輸出総額は、直近の5月分では前年比5割増という急増だ。これも前年同期のコロナ禍の悪影響が大きかった時期と比べることになるため、2年前比(2019年5月比)で見ると、当時を7%ほど上回っている。輸出は増勢にある、と判断してよいだろう。
さらに地域別に輸出を見ると、今年2月までは中国向けだけが前年比で増えていたという情勢だった。こうした状況では、対中輸出が悪化すればかなり危ういと懸念されたが、3月以降はアメリカやEU向けも含め、主要地域への輸出額がすべて前年比プラスを維持している。
新型コロナウイルスに対するワクチンの普及も踏まえると、今年末までには小売り、外食、旅行・イベント関連などの業況についても、いつかは明るい見解が市場に広がりそうだが、それまでは製造業主導の企業収益の改善と株価の下支え効果が期待される。
当面の日本市場では、前出のアメリカ株のような「バーベル戦略」ではなく、製造業主体の物色が優勢な事態が少し続くと見込まれる。日本では、重いバーベルを一気に持ち上げるような「頼りになる力持ち」が、まだ現れないのかもしれない。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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