学校での「起業家教育」に必要なものとは? 「起業」を職業の選択肢に入れよう

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また、起業に限らず、広い意味での人材育成の観点からも起業家教育は重要です。教育の世界では、「生きる力」の育成が課題となっています。これは、従前の知識偏重を改めて次のような能力を磨くことを指しています。

・自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力、
・自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、
・たくましく生きるための健康や体力

こうした能力を育むという理念の下、確かな学力、豊かな心、健やかな体の調和のとれた育成を重視するという動きです。

文部科学省初等中等教育局の橋田裕専門官は、「特に、これからの時代を生きていくために必要な「自立」「協働」「創造」のための力を、教育の現場でどう育んでいくかが大切。また、児童生徒が自ら「何のために、何を学ぶのか」を認識しながら、課題の解決に向けて主体的・協働的に学んでいくことが重要。」と指摘します。

このような中、文部科学省では、説明や討論などの言語活動の充実、企業や地域と連携した土曜日の教育活動の推進など、より実践的な教育に力をいれています。起業家教育は、このような「生きる力」の育成にも貢献すると考えられます。

起業家教育とは

では、起業家教育とはどのようなものでしょうか。形式としては、

・起業家・創業経営者の話を聞く、文献などで調べる
・課題を発見し、それに対応する事業計画を書く・発表する
・模擬会社を立ち上げ、商品・サービスの販売など起業体験をする

といった起業に関連する実践的な教育が一般的に起業家教育といわれています。「ゼロから何かを創り出す」ということを学び、経験することに重点が置かれています。

起業家教育の目的としては主に、①起業家精神・起業家マインドを育成する、②起業に必要な実践的な知識やスキルを育成する、の2つがあります。

小中学校、高校の起業家教育においては、①が主な目的となることが一般的です。この点については、起業家教育の先駆的な研究をしている早稲田大学の大江建教授(現在は退職)と平井由紀子氏が著書で次のように表現しています。

「起業家教育とは、お金を稼ぐのが上手なおとなになるための教育ではありません。事業を起こす才能をこどものうちから育てる英才教育でもありません。そういう側面もありますが、それがすべてではありません。あくまでも、こどもの想像力、分析力、実行力といった生きる力を育むことがその目的です。」

冒頭の品川女子学院、杉並第四小学校の事例の他、郁文館夢学園の起業体験プログラム、慶応義塾高校のドリームスクールをはじめ、さまざまなプログラムが実施されています。

一方、大学・大学院の起業家教育においては、①の目的を達成しつつ、学生が今後歩むキャリアパスの中で起業を実際的な選択肢とできるように②の要素を加えることが通常です。筑波大学の事例がそうですし、東京大学のアントレプレナー道場、早稲田大学の起業家養成講座、九州大学QRECのプログラムはじめ多くの大学で起業家精神の育成とともに、組織づくり、マーケティング、資金調達など実践的な知識やスキルの提供をしています。

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