学校での「起業家教育」に必要なものとは? 「起業」を職業の選択肢に入れよう

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一方、起業家教育の導入においては様々な課題があり、小中学校・高校では十分に普及していません。

第一に、先生方が忙しすぎて、新しい取組みをする余裕がないということ。センセイノートを運営する青柳健一氏によると、日本の教師の総勤務時間は1899時間と先進国の中で二番目に多いのですが(米国1913時間、韓国1680時間、イギリス1265時間)、授業自体に使う時間は37%と他国と比べて著しく低い状況です(米国57%、韓国50%、イギリス52%)。これは、先生方が事務作業や、クラブ活動、PTA対応などいろいろな事に追われているということです。この現状にさらに新しい起業家教育のプログラムをといってもむずかしのが現状です。

第二に、実際に起業家教育をやろうとしても、それについての知識や熱意を持つ教員が十分にいないということ。経済産業省が実施した高校に対する調査では、回答529校のうち71%が教員の不足・熱心な教員がいないことを問題にしています。教員で起業経験や知識を持つ人ごくまれですから、当然に出てくる課題です。

第三に、カリキュラムや教材が十分にないということ。前述の調査では回答した高校の51%がカリキュラムがないことを問題にしています。初めて起業家教育に取り組む際にガイドラインがないことがハードルになっているようです。

成長戦略改訂版における起業家教育の推進

これらの課題に対応しつつ、小中学校、高校から起業家教育を推進しようというのが成長戦略改訂版の新しいアプローチです。
先生が忙しい、知識・経験がないという課題に対して、創業経営者や専門家をはじめとする民間の力を活用することで解決を図ります。もちろん、単純に社長が学校に出向いて話をすればよいということではなく、出向く社長の側、受け入れる学校・生徒の側で十分な準備が必要ですが、経済人と学校を適切に結びつけることで、忙しい先生方を補完し、起業家教育に必要な知識・経験を提供できるようになると考えています。

すでに、民間主体で志のある経営者が教育の現場に出る以下のような事業が進んでおり、これらの事業の普及促進や、モデル事業の選定と講師派遣の支援を実施します。

<民間の起業家教育支援>
新経済連盟: 経営者が学校に出張しての特別講座を開催(品川女学院の事例)。
経済同友会: ベンチャー推進を掲げる自治体に協力し、堀義人スタートアップ都市推進協議会協働PT委員長(グロービス代表)などが現地に訪問、経営者が小中高生・大学生などを対象としてチャレンジマインド教育に参画。
ニュービジネス協議会: 大学に経営者を派遣する出前講義、学生と経営者の懇談会「起業寺子屋」、学生とインターンシップ受け入れ企業のマッチング等。
日本取引所グループ: 中高生を対象にした起業体験プログラムを実施。起業家教育を支援する情報紙OCOSO(オコソ)を教員向けに発刊・提供。
ジュニアエコノミーカレッジ: 商工会・商工会議所の青年部を中心とした小学生向け起業体験プログラムを全国23箇所で推進。

そのほか、マイトイ(杉並第四小学校の事例)、セルフウイング、ウィル・シード、日本テクノロジーベンチャーパートナーズなど民間企業による起業家教育プログラムもあります。

起業家教育のカリキュラムがないという課題に対しては、経済産業省と文部科学省が連携し、教育界・経済界のメンバーで検討会を立ち上げて、全国の先進事例を調査しながら、モデル例を指導事例としてとりまとめて全国の学校に配布する予定です。さらに、地方自治体と連携をとりつつ、地域の創業経営者や起業家を取り上げた副読本の作成などについても検討したいと考えています。

大学・大学院については、現在、経済産業省で起業家教育を担当する教員のネットワークを形成し、講義方法、教材の共有、創業経営者などゲストスピーカー情報の共有などをしていますが、これらの活動を更に強化する予定です。

さらに、全国の大学で実施しているビジネスプランコンテストとの連携や公的なコンテストの強化を図ります。現在、起業家教育の成果を発表し、教師の交流を促進する場として、経済産業省と文部科学省の共催でUniversity Venture Grand Prixを開催しています。

このイベントは、起業家教育を受講している全国の大学生・大学院生を対象としたビジネスプランコンテストです。上位3チームはシリコンバレーで現地のベンチャーやVCとの交流の機会を獲得します。また、昨年から高校生ビジネスプラン・グランプリが、日本政策金融公庫により開催されています。全国から1500を超えるプランの応募の中、1月にファイナルプレゼンが開催。夢のあるプランのコンペティションが繰り広げられ、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの孫泰蔵氏と高校生がディスカッションするセッションもありました。これらのイベントの広報強化や内容充実など、挑戦する気運を盛り上げる活動を実施する予定です。

起業家教育については、実は2000年代のはじめから経済産業省で取り組んできて、「事業仕分け」で中止になった経緯があります。理由は「短期的な効果が見えないから」。しかし、本来、教育の効果は中長期で実現するものです。今、起業家教育を受けた小学生が20年後に会社の新事業を担う課長になり、30年後に独立してベンチャーを立ち上げる、そんなストーリーがあって良いはずです。

起業家教育での「ゼロから何かを創り出す」経験は、起業の裾野の拡大、そして強い「生きる力」の育成に繋がります。ベンチャーエコシステムの形成が政策課題になっている今こそ、起業家教育に腰を据えて取組み、継続して実施するべきと考えています。

石井 芳明 経済産業省 新規事業調整官

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いしい よしあき / Yoshiaki Ishii

経済産業省 経済産業政策局 新規産業室 新規事業調整官。1965年生まれ。1987年、岡山大学法学部法学科卒業。1996年、カリフォルニア大学バークレー校 留学(公共政策 単位履修生)。2000年、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科卒業(国際経営学修士)。2012年、早稲田大学大学院商学研究科卒業(商学博士)。1987年、通商産業省(現・経済産業省)入省。中小企業・ベンチャー企業政策、産業技術政策、地域振興政策等に従事。1997年、同省工業技術院国際研究協力課、2000年、中小企業庁経営支援課、2003年、経済産業政策局産業組織課、2006年、中小企業基盤整備機構資金支援課、2007年、同ファンド企画課、2008年、大田区産業経済部産業振興課課長、2011年、地域経済産業グループ地域経済産業政策課を経て、2012年から現職。

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