最後の大桶職人が抱く「木桶文化」存続の焦燥 "本物のしょうゆ"は消えてしまうのか
「ど~ん」――。耳をつんざく重低音の大音響が腹に響く。大桶製造のクライマックス、底板はめ込みの現場だ。
「やーそれやんさー」。文字に表すとすればこんな感じか。不思議な言葉と抑揚を付け、大桶の縁に立った2人が「さー」のタイミングで息を合わせ、100キログラムを超す胴突(どうつき)と呼ばれる大きな角材を振り下ろす。
ここは大阪・堺市にある藤井製桶所、大桶を造ることができる日本で唯一、最後の桶屋さんだ。いま造っているのは直径約2.3メートル、高さ約2.5メートル、容量約30石(5200リットル)というみそ用の大桶である。
消えゆく木製の大桶
樹齢100~120年の吉野杉から切り出した側板40枚を組み合わせ、割った竹で編んだタガをはめる。木の性質を知り尽くした職人が絶妙な技で組み上げた桶は、接着剤などいっさい使わないのに、水さえまったく漏れることはない。
桶の内側に入り、胴突を打ち下ろす位置を指示しているのは、藤井製桶所の上芝雄史代表だ。底板が所定の位置にうまく入っているか、収まりがいいかどうか、打撃音を耳で聞き分けるという。
木の桶は手入れさえすれば、200年は保つそうだ。だが、しょうゆやみその醸造所で今も使われ続けている大桶は、戦前に作られたものがほとんど。つまり、遅くとも100年後にはすべての大桶が寿命を迎える。そうなれば、木桶仕込みのしょうゆやみそといった“本物”の味も消えていく。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら