最後の大桶職人が抱く「木桶文化」存続の焦燥

"本物のしょうゆ"は消えてしまうのか

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大桶は大人がすっぽりと入ってしまう大きさだ

そもそも樽屋さんや桶屋さん自体が年々、減ってきている。それでも、10石(1800リットル)程度までの小ぶりな桶や樽を造れる樽・桶屋さんはまだ70~80軒は残っているという。だが、2014年7月現在、20石や30石という大桶を造れるのは、今や藤井製桶所だけとなった。

昔はまず酒屋が、新(サラ)の大桶でお酒を仕込み、数年使ったその酒樽をしょうゆ屋やみそ屋が譲り受け、100年、200年と使い続けた。限りある資源の有効活用ということも、もちろんある。だが、お酒を醸した後の桶を使って醸造したしょうゆやみその味は、それは奥行きの深いものだったという。

今ではお酒の仕込みは、ほとんどがホーローやステンレスのタンクに置き換わった。木製の桶は衛生的でない、手入れが面倒など、表向きの理由もたくさんある。だが、一番の原因は税金にある。

「天使の分け前」が課税対象に

木桶は時代とともにホーローなどの容器に取って代わられた

木桶で醸造すると、熟成中に水分やアルコール分が蒸発し、最終的にできるお酒の量が減る。これは「自然欠減」、欧米では「天使の分け前(Angel’s Share)」と呼ばれる。日本酒では木桶の熟成中に6~10%は減るといわれている。

ところが、昭和30年代の酒税法改正で、お酒の自然欠減が認められなくなり、1%を超える欠減に税金が課されるようになった。天使が飲んだ分も徴税されるようになったわけだが、それは原価の上昇として造り手を圧迫することになった。そこで酒屋の木桶は、熟成中の欠減が出にくいホーローやステンレスに駆逐されてしまったのだ。

「もう、そんな悠長なことはやってられん」と、長野でも有名な酒蔵の社長は顔をしかめる。50年ほど前までは、醸造が終わった大桶を1本1本丁寧にたわしで洗い、天日にさらして乾かしていたそうだ。だが、ただでさえ人手が足りない昨今では、それだけの手間をかけてまで木桶で醸造はできないという。

さらに、一度ホーローやステンレスでの醸造に慣れてしまうと、温度管理などが難しくて木桶には戻れない、と告白する。また、新桶1本で、高級乗用車が1台買えてしまうという値段も、どうしても障壁を高くする。

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