ただ実際には、大幅なインフレ率上昇が起きたことで「将来のインフレ予想」の不確実性が高まった。金融市場においても、インフレがどの程度「持続的な現象」であるかについて議論はさまざまだが、同様にFOMCメンバーの中でも議論が活発に行われていたのだろう。
その結果、投票権を常時持つ複数の執行部メンバーが、利上げ開始想定を2023年に前倒ししたとみられる。なお、メンバーによる、2022~2023年のインフレ率や失業率の見通しは大きく変わっていないので、今後の利上げ開始方針、あるいはリスクマネジメントが主に変わったということになる。
足元のインフレを「一時的」と解釈しながら、これまでのインフレ率の上昇がFOMCメンバーの利上げ判断の時期に影響した。これはどのような意味を持つか。
まず、FRBが掲げている「平均インフレ目標」の枠組みだが、この解釈や適用方法にメンバーに差があるということだ。そして、一部メンバーが抱いている「インフレ上振れの許容度」が大きくない、と推察される。
例えば、2019年初を起点にしてコアPCE(個人消費支出)価格指数の2%上昇経路ラインを引くと、2020年に下振れた物価水準は、2021年4月までの大幅上昇を受けて2%上昇の経路にすでに戻っている。
「物価下振れの穴埋め」戦略の設定期間を2~3年程度とすれば、「新型コロナ禍で下振れた物価水準の穴埋め」は終わっている。であれば、金融緩和強化を徹底するよりも、インフレ上振れを積極的には許容しないとの考えに至る。
なぜ、タカ派のインフレ上振れ許容度が弱まったのか
一方、短期的な2%超へのインフレ上昇を積極的に許容することで、長年低下してきたインフレ期待を2%まで恒常的に押し上げるために、FRBは「平均インフレ目標」を採用した。そして、平均インフレ目標の枠組みを導入すると同時に、雇用最大化を改めて優先すべき目標として掲げた。
ただ、タカ派を中心に多くのメンバーが最近の価格上昇を受けて、「インフレ上振れ」を容認する姿勢が弱まったと解釈できる。
FOMCの翌々日18日(金)に、現在はかなりタカ派に位置づけられるジェームズ・ブラード・セントルイス連銀総裁の発言に反応して、アメリカの株式市場は大きく下落。債券市場では、景気減速とインフレ予想の低下を受けて長期国債金利が低下して、イールドカーブの大幅なフラットニング(平坦化)が起きた。
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