コロナで経済は変わったか?FRBの答えは「ノー」 パウエル氏がアクセルもブレーキも踏まない訳
経済の変化は目まぐるしく、現実を理解することすら容易ではない。低迷していたアメリカの雇用と物価はわずか数カ月で一変。今では人手不足が広がり、高インフレへの警戒感が高まる。
こうした異様な景気回復の中、政策担当者が頼りにしている判断材料もおかしな動きを示すようになった。例えば、雇用が増え、賃金も上がっているのに、再就職にまるで関心がないように見える働き盛りの人々が何百万人もいるのはどうしたことかーー。
連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエルFRB議長をパイロットにたとえるなら、計器の故障した飛行機で土地勘のない空域を飛んでいるようなものだ。そうした状況になったら、パイロットはどうするか。有視界飛行に切り替え、地平線を頼りに操縦する。パウエル氏もこれと同じ行動をとった。
構造要因は何も変わっていない
6月16日の連邦公開市場委員会(FOMC)後に行われた記者会見でパウエル氏が繰り返し強調したのは、2010年代の金融緩和から学んだ教訓だった。すなわち、経済の何が変わったかではなく、「何が変わっていないか」という論点だ。コロナ禍で経済が根本から変わったと結論づけようとする衝動的な動きに同氏は抵抗を示している。
パウエル氏の念頭にある教訓とは、次のようなものだ。まず、雇用にはまだ潜在的な余力がある。労働市場の盛り上がりは、多くの経済学者がかつて想定していたのよりも、さらに大規模かつ長期に維持され、しかも幅広い恩恵をもたらす可能性がある。また、インフレに歯止めをかける強力な構造要因も多数存在する。これらの理由からFRBは、経済の完全復活を早期に止めるリスクを冒すのではなく、利上げに慎重を期さなくてはならない——。